第67話

 (ご主人様?!ご主人様?!)

 ボクが拘束されてからどれ程、経ったのだろうか。

 

 (ボクが悪かったです!ご主人様一人でも、十分だと思ったんです!)

  未だに、ボクの声に反応してくれない、ご主人様。

 

 (反省してます!だから、一人で戦うなんてやめてください!!)

 ボクの謝罪の声は届いているのだろうか?

 向こうは、どうなっているのだろうか?


 ボクはご主人が気付く前に、オオカミに気付いていたんだ!

 でも、ご主人様なら大丈夫だって、いつも通り、追い返してくれるって……。


 ご主人様が、大怪我を負ってしまったらどうしよう!

 ボクのせいだ!ボクのせいだ!ボクのせいだ!

 

 (ごしゅ!あっっ!)

 急に体が動くようになったボク。

 きっと、前みたく、力を使い果たして、ボクの助けを待っているに違いない!

 

 瞬間、急いで穴から飛び出したボクは、最後にご主人様と別れた場所まで向かう。


 しかし、いくら呼び掛けても、返答がないのは、何故だろう?まさか……。

 いや!でも、ご主人様なら大丈夫だ!だって、ご主人様は、いつだって最強で………。

 

 そこには、オオカミの毛や、ご主人様の糸くずが、そこら中に散らばっていた。

 オオカミが、木に体を強く打ち付けたのか、あちこちに擦れたような跡もある。

 ……激しい戦いだったのだろう。

 

 (ご、ご主人様?)

 声を掛けてみるが、相変わらず、返答はない。

 

 (ご主人様?)

 上体を起こし、二足立ちで辺りを見回すが、誰も無い。


 この場に、オオカミもいないと言う事は、もう既に、決着はついたと言う事だろう。 

 そして、この場に、ご主人様が残っていないと言う事は……。


 (う、嘘だ……。そんな……。ご主人様が負けるなんて……)

 あれだけ強かったのに、空に飛べば逃げる事だって出来たはずなのに、最後まで、ボクを守るために……。

 

 ご主人様は、ボクが自然を舐めていると言っていた。

 その本当の意味を、今知った気がする。

 

 (何であんな事を!!ふざけるべきなんかじゃ、なかったんだ!!ちゃんとボクが報告していれば!ちゃんとご主人様の言う事を聞いていれば!!)


 探しに行かなきゃ……。

 そうだ、ご主人様が、簡単にやられるはずがない……。きっとどこかで、ボクの助けを待ってるんだ……。そうだ、そうに違いない……。


 「見てください、お嬢様。二足歩行のウサギですよ」

 立ち尽くしていた僕の耳に、ご主人様だけが使っていた、”声”という物が、飛び込んで来た。

 

 ボクは思わず顔を上げる。

 すると、目の前には、ご主人様に似た見た目の生き物がいた。

 どうやら、木の上から糸を垂らして、ゆっくりと、降りてきている様だった。


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