第66話
「一定パターンだな……」
何度目かも分からない噛みつき突撃を、難なく避ける俺。
しかし、その必死さに押され、こちらのやる気は削がれて行く。
「ハァ、ハァ、ハァ」
バテ始めて、動きが鈍くなってきているオオカミ。
「……もう終わりか?」
俺が歩み寄ろうとすると、再び突撃をかましてくる。
「ハァ、ハァ、ハァ……」
舌を出し、唾液をたらすオオカミ。
「諦めろ。お前の負けだ」
こいつには、それしか攻撃の手がないと言うのに、繰り出す度に、速度が落ちて行く。
俺が初撃を避けた時点で、もう勝負はついていたのだ。
「グルルルルゥ!」
またしても歩み寄る俺に、
もう、立つ事もままならないのか、膝が笑っている。
「新しい宿主に、これ以上、消耗されても困るからな……。悪く思うなよ」
俺は狼が突撃する度に絡ませていた糸をキュッと引き寄せる。
「キャウン!」
オオカミは情けない声を出すと、糸に脚を絡めとられ、その場に転がった。
「グワゥ……!!ヴァウ、ヴァウ!!」
糸を噛み千切ろうと暴れるが、オオカミの首の可動範囲ではそれは無理だろう。
俺は狼が頭を動かない様に、首を持ち上げる形で、糸を纏わりつかせていく。
これで、穴から糸を入れやすくなった。
顔も体も動かせなくなったオオカミは、それでも、闘志の消えない瞳で、俺を睨みつけて来る。
(これじゃあ、まるで、俺が悪い事をしているみたいじゃなか……。
……まぁ、悪い事なんだけども)
「暴れるなよ~……。暴れると、痛いし、死んじゃうかもしれないからな~……」
まぁ、暴れたくとも、関節を決められている以上、動けないとは思うが。
「別に、お前と違って、取って喰おうって訳じゃないんだ」
俺はゆっくりとダニを引き抜いた傷口から糸を垂らし、内部に張り巡らせて行く。
「お前に死なれたら俺も困る。仲良くやろうぜ」
異物感の無い様に、慎重に慎重に……。
糸先の感覚に神経をつぎ込む。
どこをどうつなぐのが正解か、反応を見つつ、繋いで行く。
やはり、新しい生物に糸を通すのは一苦労だった。
「ふぅ……。こんなもんか」
殺すだけなら簡単だが、生かして、支配下に置こうとすると、繊細な作業を必要とするので、時間と集中力を使う。
特に、大物となれば、それだけ糸を伸ばす距離も長くなるので、かなり時間がかかった。
俺は、オオカミを拘束していた糸を外し、解放する。
まぁ、体の内部からは、相変わらず拘束中ではあるが。
「よし……。行くぞ」
俺はオオカミの上に乗ると、今度こそ、拘束を解く。
「ヴァルルルルル!!!」
俺を噛むために、ぐるぐると回り始める、オオカミ
「はい!ストップ!」
そこで再び拘束を決めると、オオカミが今、歩いた時に発した信号を真似て、前足を動かす。
「……よし、上手く行った……。今度は、こっちか……」
脚をゆっくり交互に動かして前進していく俺。
分かってはいたが、相手の抵抗もあるので、面倒くさい。
「あぁ!!もう好きにしろ!!」
俺は核だけを首元に結び付けると、体全体に糸を伸ばし、絡める。
これでこいつがどんなことをしようと外れないし、もしもの時は、再び拘束すれば良い。
「いっけぇ!」
拘束を解いたオオカミは暴れるように木に体をぶつけながら、走り出す。
「おい!こら!自傷行為は禁止だ!」
オオカミがぶつけようとする場所に、糸を集めて、衝撃を吸収する。
また別の場所をぶつけようとして、その場所を保護する。
いつの間にか、糸の限界距離を超えたのか、ウサギとの糸が切れていた。
しかし、そんな事を気にしている余裕はない。
「おい!お前!いい加減に!おわっ!!」
俺はひたすらに、オオカミを糸で保護しながら、疲れ、落ち着くのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます