第60話
「いけっ!」
俺は木の上に向かって、腕を振るうと、勢いそのまま、手首の下あたりから、糸を飛ばす。
「よし……」
手繰り寄せて、木から離れない事を確認し、手首から、糸を回収しつつ、上へと登る。
「すげぇな……」
いつもリミアが行っているのを見て、羨ましいと思っていたのである。
「ほらよ」
俺は木の上から、適当な木の実を取って下に投げる。
落ちて来た食べ物を見て、ウサギがのそのそと移動し始めた。
俺がいなくなり、体が軽くなろうと、もう、跳ねる気すらなくなってしまったらしい。
「ここからなら……」
俺はリミアの中にいる内、記憶や感覚を共有していた為、リミアが行える、ある程度の事なら、模倣できる。
俺は、背中に意識を集中すると、圧縮していた糸を解きながら、羽化する蛹の様に、背中を開く。
その間から、糸を伸ばしていき、リミアの記憶をもとに、翼を生やした。
「行くぞ!!」
俺は意を決して飛んだ。
無理に羽ばたこうとせずに、バランスを取りながら、空気抵抗を翼全体で受ける感じ……。
「と、飛んだ!っと!うわぁぁぁぁ!」
気を緩めた瞬間、下に落ちる俺。
しかし、問題ない、ここでもリミアの生み出した、どんな状態からでもできる着地方法、エアバックならぬ、糸バック!
俺より先に地面に到着した糸の塊が、俺の着地の衝撃を和らげてくれる。
リミアが何度も飛行に失敗したおかげで、落下にも慣れていた為、落ち着いて対処する事が出来た。
……まぁ、その分の恐怖は、俺も体験しているんだけどね。
しかし、飛び方や翼の形状は知っていても、俺とリミアの体では、大きさも形も違うので、若干の微調整は必要のようだ。
糸玉の上から起き上がった俺は、再び木に登り、飛行の練習を繰り返す。
ウサギがあまり動かないおかけで、自由に行動できたのは、良い誤算だった。
練習を続けていると、暗くなり始めることろには、微調整が終わり、何とか、風の少ない、森の中でのみなら、飛び回れるようになった。
小さな容姿も相まって、妖精の様に見えるかもしれない。
いや、虫の羽じゃなくて、鳥の羽だから、天使の方が、近いかも……。
「……暗くなって来たな……」
俺は、糸の中の電気信号で、体内に光を生み出す。
リミアの発光と、同じ原理だが、リミア自身は、この発光を制御できない様だった。
まぁ、糸と違って、自身の体内で起こっている事なので、当然なのかもしれないが。
因みに、リミアは光を消したいとき、光が通り抜けない様、糸で何重にも自身の周りを囲っているらしい。
発光のエネルギーを無駄にしていると思うと、厄介な体質だ。
っと、ウサギがうとうとし始めている。
俺の思考判断に使用している糸は、自身の疲れと言う、眠気の信号を送ってきてはいないが、宿主が寝ると言うなら、そうしよう。
俺は核を残して体を解くと、再びウサギの周りに纏わりつき、硬化する。
これなら、オオカミに襲われようと、牙や爪を通さず、夜の寒さからも、主を守れる。
(明日は、どうするかなぁ……)
そろそろ、この生活も、飽きて来た。
それに、今日動いて分かったのだが、俺が動き回ると、主の体力の減りが激しい。
(新しく、大型の主でも、探すか……)
俺は今の主に負担を掛けない為にも、今日は早々に意識を手放した。
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