寄生生活

第56話

 (行っちまったな……)

 小鳥の上から飛び降りた、人形の俺は、上を見上げて、飛び去って行く二人の姿を見る。


 リミアは最後まで、俺の存在に気が付かなかった。

 まぁ、俺が気付かれない様にしていた部分もあるのだが。

 

 俺は、死にかけた時、リミアの糸を通して、その脳へ自分の意識を移したらしい。

 特殊な糸に脳まで絡めとられていた事、その状態で、一緒に進化してきた事、俺と同じ記憶を持つ領域が存在した事、様々な奇跡が重なり合って存在していた結果だった。


 ……と、俺は思う事にしている。

 

 次点として、俺と言う存在は、本当に死んで、既に消えており、今の俺はリミアが生み出し、育てた別人格と言う線もある。

 ストレスによって生み出された別人格に気付かず、過ごす人間は、元の世界でも、少なからず存在していた。正直、こちらの方が現実的だろう。

 

 まぁ、どちらにしろ、リミアの頭の中に閉じ込められた俺は、夢の中で声を掛ける事ぐらいしかできなかった。

 今の俺を動けるまでに育て上げたのは、無意識であったとしても、リミア自身だ。

 そして、それを分離したのも、彼女自身。

 

 もう、リミアに俺は必要ないのだ。


 彼女は俺以上に立派な大人になった。

 俺と言う存在が抜けた今、俺が占領していた処理容量も解放され、彼女は倍以上の力を発揮する事もできるだろう。

 それに、信頼できる仲間もいる。

 やはり、俺の子どもにして置くには優秀過ぎた様だった。

 

 (さぁて、優秀な子どもに捨てられた親は、何処へ行きましょうかねぇ……)

 とりあえずは、寄生主を探さなければならない。

 この体、基本的に糸なので、栄養の分解吸収ができないのだ。


 今は何とか、糸の中に蓄えられたエネルギーで動いているが、多分、それも長くはもたない。


 それこそ、下手に動けば数メートル移動するだけで、体が動かなくなるだろう。

 ほとんどの糸を、俺の記憶メモリとして使用してしまっていて、エネルギーを保持している糸は少ないのだ。


 因みに、俺の体の90%以上を構成する記憶メモリの糸が傷ついた場合も、どうなるか分からない為、俺は反撃に合わないような相手でないと、手を出したくない。


 そもそも、自由に動かせる糸が10本にも満たない時点で、相手は限られると言うのに、俺の全長約10cmを体に付着させられる相手でなければならない事を考えるに……。

 逆に、寄生されても気付かない大型生物を狙うか。

 

 俺はエネルギーを無駄にしない様に、無心でその場に転がる。

 この状態で、持って2週間。いや、狩りの際に使うエネルギーも吟味ぎんみすれば、1週間程度か……。


 その間に、良い獲物が来る事をを願うばかりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る