第55話


 「……はい。小鳥ちゃん」

 私は集めた虫と木の実を小鳥ちゃんの前に、ばら撒く。 

 

 小鳥ちゃんは、こちらを警戒しつつも、餌の方をちらちらと見た。

 私は、その場にしゃがみ込むと、頬杖をついて、小鳥ちゃんを観察する。

 

 時間が経つにつれ、段々と、餌を見る頻度が増えて行く、小鳥ちゃん。

 その内に、素早く餌を突っつき、私を見る、素早く餌を突っつき、私を見る、を繰り返し始める。

 警戒心は段々と薄まってきている様だった。

 

 昨日とは違い、今日は大ムカデも、外に出て、私たちを見守っている。

 木々の木漏れ日が、心地よい、正午のひと時だった。

 

 風と、静寂が気持ち良い。

 今なら、飛べる気がした。

 

 私は小鳥ちゃんから離れると、翼を広げ、助走をつける。

 そのまま、地面を蹴りつつ、翼に力を入れて、羽ばたけば……。

 

 「へぶしッ」

 ずざっーっと、地面を滑り、落ち葉に埋もれる私。

 気分で乗り切れるほど、世界は甘くなかった。

 

 あと、大ムカデ。今笑ったから罰だ。


 「キチキチキチッ!!」

 突然暴れ出す大ムカデに、驚く小鳥ちゃん。

 

 私は、そんな二人を無視して、もう一度、翼を開く。

 失敗はしたが、さっきの感覚は悪くなかった。

 力み過ぎず、羽ばたきすぎず、空気に乗る感じで……。翼はもうちょっと大きめにしよう。

 

 そんな事をしている間に、あっという間に一日が過ぎる。

 そして、また一日が始まって、ゆっくり過ごして………。

 

 「おいで、小鳥ちゃん」

 

 私が呼ぶと、小鳥ちゃんがチョンチョンと、跳ねる様に寄ってくる。

 可愛かった。

 

 私は小鳥ちゃんのふわふわな背中に乗って、獲物を探す。

 鬱蒼とした森の中と違って、上空は気持ちが良かった。

 飛行の下手な私では、ここまで上がってこれないので、小鳥ちゃんのおかげである。

 

 大ムカデは、最近、意中の相手ができたらしく、今日も出かけているのだ。

 野生動物らしく、実力行使で行けばよいと言うのに、伝わるかも分からない贈り物を届けたり、プロポーズをしたり。本当に、面倒くさい奴だ。

 ……でも、そう言う所、嫌いじゃない。


 「……あっ、ルリちゃん人形……」

 私はいつの間にか、いつも、肌身離さず持っていたはずの、人形を無くしていた。

 いつなくなったのかすら気が付かなかった。

 

 ………でも、もう良いのかも知れない。

 

 小鳥ちゃんが、どうしたのかと、こちらを気にしてくる。

 「なんでもない」

 私は、そう答えると、森を見渡す。


 どこまでも、どこまでも、続くと思っていた森は、案外ちっぽけだった。

 外に目を向けてみれば、田畑や集落、原っぱや、岩山、大きな川に、人工的な道も見える。色々な物があるのだ。

 

 「あ、あそこ」

 今日の獲物を見つけた私たちは、森の中へ、ゆっくりと降りて行く。


 「ばいばい」

 私は小さく呟いた。

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