第49話
私は現在、一人で家の中で、裁縫中。
大ムカデはこの木の下に作った巣で眠っているハズだ。
「………できた」
出来上がったルリちゃん人形Mk,2を両手で抱き上げ、掲げる。
このMk,2は、初期型が……諸事情により、壊れてしまったものを、泣きながら手直しした物になる。
しかし、ただ直しただけではない。
この子は初期型よりも、効率的な神経回路の縫い込み方をしている。
加えて、より強靭になった、私の糸を縫い込み、切れにくくなっているのだ。
そして、極めつけは、見た目が女の子になっている。
これで、もう壊れないだろうし、壊さないだろう。
改良もしたかったので、丁度良い機会だった。
「……よし、おいで……」
私は試しに、人形を床に置いて歩かせてみる。
両手でバランスを取りながら、テクテクテクテク……。
「………かわいい……」
自分で歩かせておきながら、思わず抱き上げてしまう。
これは、これで、母性本能と言うか……。なにか、別の物に目覚めてしまいそうだった。
ただ、この人形はただの入れ物。
これ以上の最適化は、今、必要ではない。
入れ物を作り終えたら、次は中身である。
実は、もう既に、いくつかの案は出ていた。
第一に、人間に近い生物。それも、ルリに感受性が
方法としては一番簡単だが、似通った感受性の個体の発見が困難である上に、元の個体の記憶を完全に消せない限りは、私が、完全なルリのコピーにならなかったように、完全なルリを復活されられる可能性は低い。
……それに、なにより、それで復活した場合、ルリが一番悲しむと思う。
……まぁ、最後の手段には、させてもらうかも知れない……。
第二に、適当な生物の脳に、ルリの記憶を流し込んで、私が正しいと思う反応を示したものだけを、部分的に切り取って、つなぎ合わせる方法。
これにより、ルリとしての反応を再現する事ができる。
記憶用の脳は、また別に、まっさらな物を用意して、そこに保管すれば良いだろう。
この二つを組み合わせれば、ルリの記憶と、ルリの反応を再現する事ができるはずなのだ。
「…………」
そう、そのどちらの方法も、ルリを再現できるだけ。
それは、決してルリではない。ルリに似た何かだ。
死んだ人間は戻ってこない。考えれば考える程、それを思い知らされる。
そもそも、命なんてものは、電気信号と、化学反応の塊でしかないのだから、仕方が無いのかもしれない。
今私の中にあるルリの記憶だって、電気信号で脳が作り出した幻覚かも知れないし、ルリと言う存在そのものが、実在したとしても、その前世の記憶の出どころを証明できるものは何もない。
そんな事を延々と考えていると、思うのだ。
納得した者勝ちなのだなと。
そして、その全てを理解した上で、私は今一度思う。
偽物でも良い、ルリに会いたいと。
「……そろそろ、いこっか」
私はルリちゃん人形を抱きかかえると、外に出る。
沢山の脳を集めるために。
でも、もし、神様がいて、少しでも、その優しさを分けてくれるなら。
たとえ、それが嘘でも、偽物でも良い。
ただ、ちょっとだけ、馬鹿な私が騙される様な、納得してしまう様な、甘い夢を見させて欲しい。そう願った。
今度は、ルリの為でも、誰の為でもなく、ただ私の為だけに。
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