第47話
「ムカデ一号。お座り」
糸を通して、脳に伝令を送る私
「シャァ!!」
反抗する、ムカデ。
悪い子には、感覚神経を直接刺激して、お仕置だ。
「キシャシャシャシャシャ」
その場でのた打ち回るムカデ。大きいので、無駄に危ない。
「…………」
これぐらいで良いだろうか?
「………お座り」
糸を緩めた私は、再び、伝令を送る。
「キ、キシャァ!」
うんうん。先程よりも、怯えている事が、糸を通して伝わってくる。
何度も繰り返せば、下等生物にも、効果はあるようだ。
でも、反抗したので、もう一回。
「キシャァァァァァァァァ!!!」
再び暴れまわる大ムカデ。
こうやって、ゆっくりと調教して行くのだ。
「……あ、いけない」
自然に上がってしまう頬を、両手で抑え込むと、調教を続ける。
本当は、体全てを乗っ取ってしまいたいのだが、そうすると、大ムカデの操作にかなりの情報処理能力を割かなければいけなくなる。
勿論、肌身離さず、私の抱えている、糸だけでできた、ルリ人形を動かすよりは、既存の神経を使う分、操作は楽ではある。
楽ではあるが、私の今の目的は、情報処理容量を上げる事。ここであまり多くの容量を割いている余裕は無いのだ。
では、どうすれば、簡単に、操作ができるか。それは勿論、自分で動いてもらう事である。
なので、私は、徹底的に、この小さな脳みそに、主従関係を教え込まなければならない。
時間を多く割く、実に、面倒くさい作業だ。
本当に面倒くさい作業だ。
全くもって、楽しくなんかない。
「お座り」
何度目かの伝令。
ムカデは、その信号を、動かない事で、やり過ごせると気づき、やっと、大人しくなる。
「よしよし、良い子……。次は、前進」
「キ、キシャ……?」
新しい伝令に、戸惑う大ムカデ。
しかし、この手の信号が来た時は恐怖するようになっている。
これなら、次から調教は、先程までより、素早く済ませそうだ。
「前進は、こうする」
無理やり体を動かして、やり方を教えた後、自分でやらせる。
勿論、言う事を聞かなければ……。
「キシャァァァァァァァ!!」
……勿論。ご褒美も忘れない。
上手く言う事を聞けば、餌を与える。
休息だって、与える。
一日目にして、しっかりとした主従関係を頭に焼き付けさせた。
……それでも、ムカデは頭が悪い為か、何度も、伝令を忘れてしまう。
なので、何度も、何度も、何度も、反復作業のように、練習を行う。
恐怖と言う本能に根付けば、感情の薄い下等生物でも、進化と共に、脳の容量は増えた。
それに、脳が覚えられないのなら、神経が覚えれば良いのだ。……我ながら、名案である。
私は、ムカデと共に、簡単な狩りを行い、私とムカデの経験値を溜めて行く。
結果として、私の情報処理能力は、幾分か上がり、何とか、ルリ人形を歩かせられるまでに成長した。
ムカデは相変わらずバカだったが、まぁ、少しずつ、伝令も覚え始め、使える様にはなってくる。
こうして、私は、充実した………。面倒くさい、調教生活を送って行った結果……。
「キシ、キシキシキシ……」
5週間程が経ったある日。
ムカデが何度目かの泡を吹き、気絶した頃。
「よしよし………。全部、覚えられたね」
私の下僕、第二号は完成した。
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