第46話

 「…………こいつらなら……。いける」

 私は唯一、食う食われるの関係性以外で、手にかけていた、アブラムシモドキに挑戦していた。

 

 この場所のアブラムシモドキは最強で、あの大蜘蛛を一撃で麻痺させる程の、麻痺毒を持っている。

 そう、ルリが最後、大蜘蛛に投げつけた、アレだ。

 

 採取が危険で、保管にも細心の注意を払わないといけないが、もしもの時の為に、最低、一つは持って置きたい。

 

 私は、風向きを考慮した安全圏内に陣取る。

 次に、細い糸を出し、空気を振動させないように、ゆっくりと。風に流されないように、しっかりと、幹を這わす。


 「……よし。第一関門、突破」

 何とか、気付かれずに、アブラムシモドキのそばまで糸を這わすことに成功した。


 次はお尻の穴から、体内に糸を入れていく作業。

 本当は口から入れたいのだが、常に葉に噛みついている為、それは出来ない。


 痛みで気づかれないように、慎重に、頭の方へと糸を伸ばしていく。

 よし……。そのまま、脳を破壊して……。


 「………上手くいった……」

 力なく、横たわるアブラムシモドキ。

 その体に糸を巻き付けると、他の個体を刺激しないように、ゆっくりと引き寄せる。

 

 「……成功」

 少し、得意げになる私。

 動かない相手なら、私の敵ではないのだ。

 ……それに、動かない相手だと、殺したという実感が薄いのも、救いだ。

 

 私はその調子で、20個程の揮発性麻痺爆弾を確保した。

 一個で大蜘蛛を戦闘不能にできるのだ。これだけあれば十分だろう。

 

 「おっ………と」

 パンパンになった保管袋を一気にかつぎ上げると、一つの麻痺爆弾が袋の口から零れ落ちた。

 

 幸い、幹の上だったので、爆弾はそのまま、はるか真下の地面まで落下していく。


 「………勿体ない……」

 私は爆弾が落ちて行った方向を見つめるが、いつまでも、そんな事をしていても仕方がない。

 すぐに気持ちを切り替えると、今度は落とさないように、ゆっくりと、慎重に、幹を下りて行った。 

 

 「………あれ?」

 無事に地面に降り立つと、そこには、痙攣する、私の10倍以上はあるであろう、大ムカデの姿が……。


 これほどの威力の物が、私の傍で爆発していたら、ショック死間待ったなしだったろう……。


 改めて、その威力を実感し、ゾッとする。

 ……次からは慎重に、欲張らず行こう。

 

 しかし、この大ムカデ、どうしたものか。

 この種類は、ルリを襲う事はないが、私であれば、襲われていただろう。

 ルリの判断基準であれば、殺して良い事になる。


 ただ、実際、私が襲われた訳でもないし……。

 いや、奇襲もありなら、これも、アリなのでは?

 

 「…………」

 しかし、やはり、殺すのは躊躇ためらわれる。

 最初の一線を踏み越える相手としては、相応しくない気がした。

 

 「………そうだ」

 私は、相手が痺れているのを良い事に、口からゆっくり糸を入れていく。

 

 良い乗り物ができた……。

 「………いけない」

 顔の筋を動かさず、無表情を突き通していたはずなのに、自然と、頬の筋が緩み、悪い笑みを浮かべてしまう。

 

 「……よし」

 顔を両手で挟むように叩くと、表情筋を抑え込み、無表情に戻る。

 

 ………やはり、私の性格は、ブスなのかもしれない…………。

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