第44話
「………できた」
私は糸だけでできた人形を立たせる。
「………小さい……」
一応、人の形にはなったが、私の操作できる糸が少なく、腕に収まる程度の物になってしまった。
「おいで……」
私は人形に繋がった糸から、指令を出し、人形を歩かせる。
「よいしょ、よいしょ、よ、イッ……!!」
頭に走った激痛に、私はよろめく。
指示を失った人形は、その場に崩れ落ちてしまった。
どうやら、この大きさでも、歩かせるだけで、私の脳の情報処理容量を超えてしまうらしい。
しかし、これ以上小さいものになると、操作が繊細になって、逆に、負担が掛かってしまう。
「進化……。進化しなきゃ……」
私は未だに痛む頭を押さえ、崩れ落ちた人形を拾う。
進化の条件とは何だろうか。
私が喋れるようになったのは、気持ちが爆発した時だった。
きっと、心が進化の速度を上げる鍵なのだと思う。
でも、その点で言えば、今の私の覚悟は、あの時以上だ。
きっと、他に条件があるのかもしれない。
「経験値……」
それは、ルリの中にある、ゲームの知識だ。
相手の命を奪って、自分に取り込む。そんなイメージ。
心と言う、曖昧な物がトリガーなら、その燃料に、命と言う、概念的存在を消費しても、おかしく無い様な気がしてくる。
……いや、おかしい、おかしくないの問題ではない。今は他に、考えられる方法が無いのだ。やるしかない。
私は糸で完全に
「…………」
外から差し込む日の光に、足が
吹き込んでくる新鮮な空気が、ここからは外界なのだと、死の境界線なのだと、教えてくる。
あの日以来、私は大蜘蛛の死体を食べる事で生き延びてきた。
外に出る事が怖かったからだ。
あんなに心強かったルリが、一瞬で殺されてしまった。
私だって………。
「ふふふっ………」
あの時は、あんなに、死にたい、死にたい、と、言っていた癖に。
全く死ぬ気の感じされられない、私の思考に、笑いが込み上げてくる。
しかし、目標ができた今は、絶対に死にたくない。
ルリを生き返らせられぬまま死んで行くと考えるだけで、死ぬよりも怖かった。
外に出たら、死ぬかもしれない。でも、外に出なければ始まらない。
このままでは、終われない。
私は、ルリの人形をギュッと抱きかかえると、震える足で、一歩ずつ踏み出す。
一歩踏み出すごとに、嫌な汗が噴き出した。
恐ろしい記憶が蘇った。
自身が、夢半ばで、簡単に殺されてしまう風景が思い浮かぶ。
……身を
「………大丈夫。今の私なら………」
その日、死にたくないはずの私は、死にたい私が越えられなかった死の境界を踏み越えた。
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