第39話

 《ミテ、ミテ》

 今日も新しい服を披露する、彼女。

 

 俺はベッドの上から、ちらっと視線をやると(可愛い、可愛い)と言って、自分の作業に戻る。


 《………ルリ、ナニしてる?》

 しばらくすると、少し、不機嫌そうな声で、彼女が話しかけてきた。

 先程まで、あれ程上機嫌で、お披露目会をやっていた癖に、面倒くさい奴だ。

 

 その瞬間、思考を読まれたのか、彼女の視線が、更に冷たくなる。

 

 (工作だよ、工作。石で、木の板に文字を掘ってんだ)

 身に危険を感じた俺は、すぐさま作業を中断して、彼女の問いに答えた。

 

 《ソレ、ナニ?》

 未だに不機嫌な彼女。気に触れないようにしなければ……。

 

 (これは、平仮名五十音を表記した文字盤だ。…まだ、途中だけどな)

 俺は、描いている途中の、木の板を見せる。

 

 (この子の勉強用だよ)

 お腹をさすりながら、呟く俺。

 

 《ソウ……》

 彼女は、何を思ったのか、木の板を手に取り、見つめる。


 (こっちは、もう、出来てんだが……)

 彼女が、余りにも興味深そうに、未完成の木の板を見つめるので、片仮名版の完成品も見せて見た。

 すると、彼女は、空いたもう片方の手で、それも、受け取る。


 《………》

 無言で二つの板を見つめる彼女。

 

 しばらくすると、やっと飽きたのか、顔を上げる彼女。

 しかし、その両手には、未だに、しっかりと木の板がにぎられている。


 《……アレは?》

 視線と共に、八本の脚の一つで、部屋の隅に転がっている、ボールをしめす。


 (ボールだよ、ボール。……表面は薄い木の皮。その次の層に、このベッドにも使ってる、綿みたいな植物繊維。下は、丸いココナッツみたいな木の実の、中身をくりぬいたやつが入ってんだ。……ちょっと、すごいだろ?)

 我ながら、自信作だったので、少し話していて、面白くなってしまった。

 

 しかし、俺の得意げな問いを無視し、次なる標的を探す彼女。


 《アッチは?》

 彼女は、積み木の山を指す。


 (そんなの、見れば分かるだろ。積み木だ、積み木)

 俺は熱い想いを、半ば流された形となり、不貞腐れたように答える。

 

 《アレ》

 (サイコロ)


 《ソレ》

 (パズル)

 

 《コレ》

 (木琴もっきんと、カスタネット)

 

 《アレ》《コレ》《ソレ》

 (急になんだんだよ?!見れば分かるだろ!全部、この子の為の玩具だ!)

 突然、暴走しだした彼女に怒鳴る。

 

 《………ワタシのは?》

 小さな声で呟く彼女。

 

 (え?……お前には……。別に、必要ないだろ………)

 困惑しながらも、隠した所で無駄なので、本音をぶつける。

 

 《………ズルイ》

 悔しそうに俯く彼女。

 

 (ズルいって、お前……)

 俺は何と返せば良いのか思い浮かばず、言葉に詰まる。

 

 《コレ、チョウダイ》

 両手に握っていた、木の板を抱きしめる彼女。

 

 (おいおい、そんなの貰って、どうす……)

 《チョウダイ!!》

 俺は、彼女の乱れた大声に、驚く。

 

 固まる俺。

 興奮したように、俯きながら、肩で、息をする彼女。

 

 (……あ、あぁ、分かった。やるよ。やるから……な?)

 俺はどうして良いか分からずに、とりあえず、なだめに入る。

 この頃の彼女は、やはり、どこか、おかしかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る