第36話

 ホワイト、ゴスロリ、メイド服だとッ!!

 朝、目が覚めると、目の前には新作の衣装に身を包んだ、彼女が立っていた。


 朝から刺激が強すぎるっ!!

 昨日の晩、いそいそと作っていたのはこれかっ!!


 《キョウのシンサク。……ドウ?》

 そう言って、服のすそを持ち上げる彼女。

 表情は薄いながらも、うつむいて、恥ずかしそうにしている。


 (恥ずかしいなら、初めから、そんな格好するな!

 そんな態度取られると、まるで、俺が無理矢理、着させているみたいじゃないか!)

 俺まで恥ずかしくなって、顔を逸らしてしまう。

 

 《カ、カワイイ?》

 (そ、そんな、うかがうような視線で、こっちを見るな!何だ?!変なもんでも食ったか?!)

 そりゃぁ!可愛くない訳、無いけどさ!


 《ソウ……。カワイイの……》

 嬉しそうな、恥ずかしそうな、態度を取る彼女。

 

 あぁ、そうか、彼女が可笑おかしくなったんじゃ無い。俺が可笑しくなったんだ。

 あるいは、夢オチかも知れないと、触覚を引っ張って見るが、涙がちょちょぎれる程、痛い。……まさか、痛覚がある夢なのか?!

 

 《……サスガに、ソロソロ、シツレイ》

 彼女の冷たい声が、頭に響く。

 無表情ながら、視線からも、少し、鋭いものを感じる。

 

 《ワタシ、オシャレする。ヘン?》

 小首をかしげながら、聞いてくる彼女。

 威圧と言うよりは、純粋に疑問を持って聞いてきているようだ。

 

 (変じゃ無い!変じゃ無い!似合ってるし、女の子らしくて、良いと思うぞ!……ただ、少し急だったから、驚いただけさ!)

 隠しても無駄な事は分かっているので、正直に答える俺。


 《ニアウ……。オンナのコ、らしい……》

 そう呟きながら、固まる彼女に、俺は困惑する。

 

 彼女は、道具を作って、使う。と言う事を覚えた時点で、一人で生きて行けるだけの能力を手に入れたのだ。

 それに、俺を使役したければ、今まで通り、力尽ちからずくで、せればいい。


 今更、彼女が俺にびる必要なんて……。

 

 《コレって……》

 勢い良く顔を上げ、ハッと、した表情をする彼女。

 その反応に、答えがでるのか?!と、息をむ、俺。

 

 張り詰めた空気の中、彼女が出した答えは……。


 《……ビョウキ?》

 不思議そうに、小首をかしげる彼女。


 (結局、そこに、落ち着くんかい!!)

 意表いひょうを突かれた俺は、一気に心が冷めるのを感じる。


 しかし、そうか、そうだよな!万が一にも、冷酷なこいつが、人間らしい感情なんて、いだくはずが無い!

 俺は一人納得すると、深々とうなずく。

 

 そんな俺の影で、彼女も、一人静かに、考え事を始める。

 人間の両手を、その胸へと、手を当てながら。

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