第35話

 《ドウ?》

 俺の前で、くるりと回る、無表情な彼女。

 どうやら、新作の服を見せに来たらしい。


 (おぉ!フリフリや、レース加工まで出来るようになったのか!すごいな!)

 俺が使う事に特化して進化しているなら、彼女は作る事に特化して進化しているらしい。

 正直、日に日に成長していく、彼女の加工技術を見るのは楽しかった。

 

 《ソレホドデモナイ……》

 すこし、恥ずかし気に、零す彼女。表情も少し、緩んでいるように感じる。

 彼女は、そういう面でも、進化して行って居るのかもしれないな。


 しかし、そんな人間らしい姿を見せられると、今着ている、清楚でありながら、美しい服と相まって、可愛らしく見える。

 

 《カワイイ、デスか?》

 彼女は俺の思考を読み取ったのか、その恥ずかしい言葉を、反芻はんすうする。

 それを無表情で行うものだから、恥ずかしがっている俺の方が変な気がして、余計に恥ずかしくなってしまう。

 

 (き、気にするな!一瞬の気の迷いだ!忘れろ!)

 俺の声を、聞いてか、聞かずか《カワイイ、カワイイ》と、無表情で、考え込むように繰り返す彼女。


 一瞬、俺への当てつけかとも、思ったが、下腹部の光を見るに、どうやら真剣に考えているらしい。


 物を考える時も、自然と人間の仕草を行えるようになっており、虫の部位さえなくなれば、表情が薄いだけの、普通の女の子に見える。

 

 (まぁ、性格が、根暗で、冷酷な暴力女……)

 そこで、考え込んでいたはずの、彼女と目が合った。

 (こういう時だけ、綺麗な笑顔で笑うのは、やめて欲しいのだが……)

 

 笑顔のまま、目に見える量の糸の束を目の前でクネらせる彼女。

 (もっと言うなら!その糸の束を下ろしてほしいのだがッ?!)


 無駄な抵抗だと、分かってはいても、声に出さざるを得ない。

 俺は、衝撃に備え、歯を食いしばる。

 

 《……マァ、コンカイは、ユルシます》

 そう言って、糸の束を下ろす彼女。

 (しかし、俺は騙されないぞ!お前が、どれだけ陰湿な奴か)《オノゾミドオリニ、シテアゲマショウカ?》(いぇ!何でもありません!)

 彼女ににらまれた俺は、反射の勢いで土下座をかますと、素直に、彼女の言葉を受け入れた。

 調教の効果、マジ、パネェっす……。絶対に逆らえないっす……。

 

 《……ワカリマシタ。ソノヨウナカンガエで、アルナラバ、ワタシが、ヒトリで、カリをオコナッテも、モンクは》

 (それは駄目だ)

 俺は立ち上がり、食い気味に答えると、出入り口の前に移動する。


 (絶対にダメだ)

 出入り口の前で仁王立ちする俺。

 そんな俺を睨みつける彼女。

 ちょっと、脚が震えているのは、ご愛嬌あいきょうだ。

 

 《……ハァ……》

 彼女は俺から目をらすと、呆れた様に、溜息を吐く。

 

 (た、助かった……)

 俺は思わず、その場にへたり込んだ。

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