第33話

 彼女の口から飛び出した、進化という言葉。

 俺は、その言葉の続きを興奮気味に待っていた。


 《ワタシのホンノウ、に、アルジョウホウ、ルリのキオク、から、コトバに、シタダケ》

 (なぁんだ……。つまり、お前にも、良く分かんないって事か……)

 

 《チガウ。スコシ、マツ。……イマ、コトバ、カンガ、エル》

 俺の落胆らくたんする態度に対抗心を燃やしたのか、必死に考え始める、彼女。

 その必死さは、人間側に力が入っていない事と、下腹部の光り方を見ればわかる。


 俺も、期待を込めて、その姿を見守った。

 

 《……セイチョウ、は、イキテル、スルダケで、シテイク……》

 少しずつ言葉を紡ぎ出す、彼女。

 

 《タトエレバ、スコシズツ、ワタシの、イトのアツカイ、ジョウズにナル。アツカウ、イトのカズ、フエル。ハンショク、デキル、ヨウにナル。コレワ、セイチョウ》


 《デモ、シンカ、ジョウケン、アル。……ソノ、ブン、セイチョウ、ヨリも、カラダが、ヘンイ、スル。…スコシズツ、チガウ。セダイ、コエテ、スルホドの、カラダのセイチョウ、ミジカイ、アイダに、スル》


 ふむふむ、要するに、進化が決定した時点で、世代を越えるほど、大きな成長をする訳か……。


 つまり、俺の今の状態は、進化条件が整った状態での、数世代分の成長が成された姿と言う事か!


 きっと、巣を立ち、単独で生活し始めたせいで、女王と同じ、多産型だと、世話をしきれなかったんだ!

 そう考えると、夢が広がる。


 (なるほど!なるほど!それで、条件って言うのは?!)

 

 《………ワカラナイ》

 (ッチ、つかえな、イッ、イタイ!痛い痛い痛い!!!)

 突然、神経を引っ張ってくる彼女。

 俺は余りの痛さに、床に転がる。

 

 《イタイ?…ワタシも、ココロがイタイワ》

 痛みにのた打ち回る俺に、悲劇のヒロインよろしく、身振り手振りを交え、ゆっくりと近寄ってくる彼女。

 その大きすぎるリアクションと、感情を伴わない口調。絶対に、ワザとやっている。


 《デモ、アンシンシテ、イタミが、シンカのジョウケンかも、シレナイ。アナタのギセイワ、ムダにシナイわ》

 俺の目の前で、止まり、俺を見下しながら、体内の糸を弱める彼女。


 こいつ、段々、開放的になってきやがった。

 言葉や仕草も自然になりつつある。記憶や感情が、体に馴染んで来て、本来の自分を出せるようになって来たのかもしれない。


 (……まぁ、本性が、こんなブスじゃぁ……)

 俺は、頭に浮かんだ思考を必死に掻き消すが、もう遅い。


 彼女はその場でしゃがみ込むと、床に転がる俺に、至近距離で、優しく笑いかけて来た。

 悪魔だ。悪魔の笑みだ。

 

 《アァ!アナタの、ココロない、コトバに、マタ、ワタシのムネが……》

 (痛い痛い痛い!!)

 あぁ、痛みで、段々、意識が遠くなる……。


 俺はこうやって、俺は調教されて行くのだろうか。

 

 この関係性のまま、進化したら、どうなってしまうのだろう。


 俺は、頭に浮かんだ最悪のシナリオを、意識と共に手放した。

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