第32話

 あれから数日。子どもは未だに生まれて来ない。


 (どんな子が生まれて来るんだろうな……)

 《マタ、コドモの、コト、カンガエ、てる》

 俺が、一人、部屋の隅で腹を撫でていると、彼女が突っかかって来た。

 

 (お前には、関係ないだろ)

 俺は、適当に返すと、シッシと、追い払うように手を振った。

 

 《カンケイ、アル。ルリの、コドモ、も、ワタシの、ゲボク》

 (おい!てめぇ!百歩譲って、俺が下僕だとしても、子どもに手を出すのは、許さねぇからな!)

 

 《………ジョウダン》

 (はぁ………)

 こいつは、この頃、良く、冗談を言うようになった。

 しかし、これが、本気かどうか、全く分からない。

 下手をすると、俺の気に触れそうになった時、冗談。と、言ってごまかしている節が《ナイ》

 

 (……おい。人の思考に割り込むな)

 彼女は、俺の威圧的な視線を無視して、糸で、もう何着目か分からない、服を織っていた。


 人間の体を放置して、下腹部と、八本の脚だけで織っている。

 きっと、人間の体より、虫の部分の方が、扱いやすいのだろう。


 だが、せめて、人間の体の方にも、少しは力を入れて欲しい。


 死体の様に、力なく垂れさがる人間。

 その背中から生えた虫の脚が元気に動く光景。

 B級ホラー映画で良く目にする、人間を食い破り、羽化しようとしている、寄生虫の様だ。

 

 《デキタ》

 俺の思考など無視して、出来上がった服を掲げる、彼女。

 人間の方は死んでいるので、表情は分からないが、下腹部の光り方的に、得意気な雰囲気だ。

 

 《……エッチ、です》

 編みあがった服を布の様に掛け、下腹部を隠す彼女。

 食事を恥ずかしかったり、光を恥ずかしかったり、変なやつだ。

 

 《ココ、ワタシの、ホンタイ。ハズカシイの、アタリマエ》


 (最初、俺に押し倒された時は、惜し気もなく、指を指して、見せつけていた癖に)


 《アレも、ハズカシイ、デした……》

 その言葉には、少し、熱がこもっていた気がした。


 (そんなもんなのか?)

 いつもとは違う雰囲気に、探る様な答えを返す俺。

 

 《ソンナモン》

 しかし、彼女は、何事も無かったかのように、いつも通りの口調で、答える。

 

 …………。

 気まずい静寂。

 

 (………なぁ、そう言えば、何で女王はあんなに沢山、卵を産んでいたのに、俺は一つなんだ?)

 別に、知っているとも思わなかったし、答えが欲しい訳でもなかった。

 ただ、この空気を壊したかっただけの質問。

 

 《ソレワ、ルリが、ジョオウとワ、ベツのホウコウに、シンカ、シタから》

 意外にも、しっかりとした答えが返って来た事に、俺は驚く。

 それに、進化とは、心が躍るじゃないか!

 

 《進化って、どういう事だ?!成長して、卵が産めるようになっただけじゃないのか?!》

 どうも、詳しく知っているような彼女の口調に、俺は素早く食いついた。

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