第26話

 《ウデ。クダサイ》

 彼女がそう言うと、俺の体が勝手に動き、彼女の千切れ落ちた腕を、欠損部位に近づけた。

 欠損部位からは、糸が生き物の様に伸びて行き、千切れた腕の糸と絡まる。


 《ナオッタ……》

 確認するように、腕を動かす彼女。

 そちらに集中しているのか、表情を動かすのを忘れて、無表情になっている。

 流石に、崩れた外皮は再生しない様だったが、破格の再生能力であることに、変わりはない。

 

 ……どうすれば、こいつを殺せるのだろうか?

 そんな事を考えていると、彼女は光る下腹部を指差し《ココデス》と、答えた。

 

 (おいおい、そんなに簡単に、弱点を教えて良いのか?)

 それだけ、舐められていると言う事なのだろうか。

 

 《チガウ、マス。ワタシ、アナタ、イウ、イイ、オモウ、シタ》

 長文を紡ぎ出すのが難しいのか、表情を変えずに喋る、彼女。

 俺の記憶をもとに、言葉を選んで、話しているのだとすると、喋る事は、かなり頭を使う事なのかもしれない。

 

 《ソウ。ワタシ、キオク、ミル、デキル。エイゾウ、オンセイ、ダケ。…コトバ、エラブ、ムズカシイ》

 俺の記憶の中の、映像と音声だけで、喋ったり、表情を動かしたりしているのか……。うん、上手く想像できない。

 

 《スキ!》

 表情を緩ませ、再び抱き着いてくる彼女。

 

 《コレ、ワカル。アイテ、ニ、スカレル。アイテ、ワタシ、オソワナイ》

 再び無表情に戻る彼女。

 きっと、どの種族に寄生するにでも、好かれる事で、寄生しやすくしているのだろう。

 

 《デモ、エイゾウ、オンセイ、ダケ。カンジョウ、カンカク、フゾク、スル、ナイ。スカレル、ムズカシイ》

 (……つまり、好き。って言って、表情を緩ませるのは、好かれるための手段であって、本当の好きは分からないって事か?)

 

 自分でも、何を言っているか分からなくなりそうだったが、彼女は、首を大きく縦に振った。

 

 《クリナ、キオク、モトニ、アナタ、タヨル、サイテキ、オモウ、シタ》

 (てめぇ!クリナの記憶まで!)

 掴みかかろうとするが、体が動かない。

 考えてみれば、当たり前だ。他人の俺の記憶が読めるのに、本人の記憶が読めない訳がない。

 

 《ソノ、コウゲキ、カンジョウ……。オコル、シタ?》

 如何やら、俺から、糸を通しての、リアルタイムな感情は、伝わるらしい。

 

 《オコル。コマル。アヤマル》

 無表情で頭を下げて来る、彼女。イラつく。

 

 《コウ?》

 俺の感情を読んだのか、今度は、申し訳なさそうな顔で、頭を下げる彼女。

 イラつく…。イラつく、イラツク、イラツクッ!


 クリナを踏みにじられている気がした。

 その一挙、一動、全てが、かんに障る。

 

 《ドウスレバ、ユルス?》

 そんな物、俺にも分からない。それこそ、死んでも許さないかもしれない。

 

 《ソレ、コマル。ワタシ、イキル、シタイ》

 (それなら、俺を殺せっ!!!お前の操り人形になるなら、死んだほうがましだっ!!)

 

 《ワタシ、モロイ。アナタ、ヒツヨウ》

 そう言って、彼女は、俺の頭に、手を伸ばす。

 

 《イイコ、イイコ……》

 優しく、頭を撫でて来る、彼女。

 抵抗できない俺。

 屈辱だった。

 

 《コレモ、チガウ?》

 わざとらしく、首を傾げる彼女。

 

 絶対に、いつか、殺してやる。

 そう、心に、固く誓った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る