第27話

 《シタガウ》

 執拗に、俺を従わせようとしてくる彼女。

 (従わない)


 《ゼッタイ?》

 (絶対だ!) 

 もう、何度目かのやり取り。

 

 《そう……》

 今度は立ち上がり、睨み、見下してくる彼女。

 今度こそ、何か、強硬手段を取るつもりなのだろうか。


 そんな彼女の体は、乾き始めたのか、色を持ち始めていた。

 と言っても、髪も、肌も、下腹部も、殆どが透き通るような白のまま。

 目立って色が付いたのは、赤い瞳ぐらいだろうか。……アルビノと言う奴なのかもしれない。


 《シタガウ。シナサイ》

 俺を白く細い人間の脚で、見上げる俺を踏みつける彼女。

 しかし、非力で、俺の頭を地面につける事すらできない。


 《……ダメ?》

 そして、そこからの、無表情首傾げ。

 

 (……ダメだ)

 これが彼女の目的なのかと思うほどに、戦意が削がれていく、やり取り。

 

 《サクセン。チガウ》

 ……こういう素直な所が……。

 

 《スナオ?…スナオ、ヨイ?》

 良いと言うか…。なんと言うか……。

 

 《ワカル、シタ。ワタシ、スナオ、スル。カワリ、ルリ、シタガウ》

 いや、そもそも、お前、素直以外に、なれるのか?

 

 《ナル、デキル。………したがって欲しくなんか、無いんだからね!》

 彼女は、違和感のない言葉を紡ぐと、そっぽを向く。

 

 そして、すぐにこちらに向き変えると、《ドウ?》と、聞いてきた。

 心なしか、無表情な顔が、得意げに見える。

 

 と、言うか、そんな綺麗に喋れるなら、最初から喋れよ。

 《ソレ、デキル、シナイ。ロクオン、ナガス、シタ、ダケ。カイワ、ツカウ、デキル、シナイ》

 

 ……そんなもんなのか

 《ソンナモン》

 

 真似すんなよな。

 《……オコル、サセル、シナイ。ムズカシイ》

 彼女の悩むような仕草が、幾分か、自然に見えた。

 

 ……怒らせないようにするのは、難しいな。

 《ソウ。オコラセナイ、ニスルノワ、ムズカシイ》

 

 真似するな。

 《………》

 シュンとなる、彼女。

 何か悪い事をした気分になる。

 

 《シグサ、ウマイ?》

 何事も無かったかのように、無表情でこちらを見る彼女。

 ……そう言う事を、聞かなきゃいいんだよ……。

 

 《ソンナモン。ナノ、カ》

 ……そんなもんだ。

 

 《……ルリ、ココロ、オダヤカ。オコル、ヤメタ?》

 やめてない。

 

 《マタ、オコル、シタ……》

 またも、シュンとする、彼女。

 ……しかし、ちらちらと、窺うようにこっちを見るのは、減点だな。

 

 《ルリ、イマ、ココロ、ユラグ、シタ。スナオニ、ナル》

 何で、俺が素直に……。って、それじゃあ、俺が、見え張ってる見たいじゃねぇか!

 

 《ミエ、ハッテル》

 無表情の瞳に射抜かれる俺。

 

 《スナオジャナイ。ミエ、ハッテル》

 うぐぐぐぐぐぐぅ……!

 

 《オコル。ズルイ》

 怒ってない!

 

 《オコル、シテル》

 怒ってない!

 

 《……ワカル、シタ。ルリ、オコル、シテナイ。ダカラ、シタガウ》

 何でそうなるんだぁぁぁ!!!

 《ウルサイ!!!》

 

 お互いの声にならない叫びは、二人だけの空間に木霊した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る