第13話
(…………?)
無心でカゲロウの亡骸を運んでいた俺は、突然、重くなった荷物に違和感を覚える。
(何かに引っ掛かったか?)
別の角度から引っ張ってみようと、一度引く顎を離す。
(????)
顎を離した途端、カゲロウの亡骸は、ズルズルと逆方向へ、動き出した。
俺は不思議に思いつつ、獲物が引かれている方向に回り込む。
(……何だこいつ)
そこでは、俺の仲間に似た虫が、俺の獲物を引っ張っていた。
俺は顔を近づけて、良くその姿を観察する。
……どう見ても、同族だ。
しかし、どこか違和感がある。
巣とは別の方向に、獲物を引っ張っているのもそうだが……。
一生懸命に獲物を運んでいる、同族。
これだけ近付いても、気が付かない程、熱中している。
俺は挨拶する様に、同族を叩く。
すると、その瞬間。違和感が更に大きくなった。
香りが違うのだ。仲間の香りでは無い。
(敵か?!)
俺は思わず距離を取った。
相手も流石に気が付いたのか、驚いて、辺りを駆け回る。
そして、最終的には、何もなかったと判断したのか、獲物の下に戻り、再び引き摺り始める。
…もう少し、自らの感覚に、自信を持っても良いのではないだろうか?
いや、何もないと、自信を持って判断したからこそ、仕事に戻ったのだろうが……。
きっと、あいつにも、俺と同じ世界は見えているのだろう。
見えているのだろうが、きっと、情報を処理する能力が足りていないのだ。
目に映っていても、それを、それと認識できない。
相手が視界に入っていても、動かないと、生物として、脅威として認識できないのだ。
俺は、ヤツの周りで動き回ってみるが、反応はない。
もう、獲物を運ぶ事で、頭が一杯になり、他に意識を割く余裕がないのだろう。
改めて、観察してみると、本当に馬鹿な生き物である。
しかし、こんなバカな奴らでも、世話好きや、巣の中で良く道を譲るもの、サボり癖のある者や、綺麗好きの者等、様々な性格の奴がいる。
……本当に、こいつらに、感情はないのだろうか?
(………あっ)
飛びかけた思考を引き戻すころには、獲物がかなり移動していた。
貴重な食料を横取りされる訳には行かない。
俺は急いで、その後を追いかけると、自分の巣の方向へ引っ張り始める。
初めての綱引き合戦は、若干、俺の方が優勢で、少しずつ、こちら側へ、引き摺られ始めた。
しかし、相手も諦め切れない様で、永遠に引っ張り続けて来る。
自分が引き摺られている事に疑問を持ち、攻撃してこない点は、争いにくい、こちらとしても、助かるのだが……。
(はぁ……)
ゴールが見えない綱引き合戦も、これまた、考える事の出来るこちらにとっては、十分な精神攻撃であった。
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