第14話

 太陽の位置を元に、巣を目指す事、数十分。やっと、巣の匂いが漂ってきた。

 綱引きは、絶賛、開催中だが、ゴールが見えて来た事で、折れかけた心が、再び燃え上がる。

 

 と、そこに、新たな同族が……。

 どちらかの増援か、或いは、新たな敵か。

 動向を窺っていたが、新参者が獲物を掴むと、獲物を引く抵抗が少なくなる。

 如何やら、味方の様だった。

 

 胸を撫で下ろし、巣の方向へと進んで行くと、巣の方向から、更に同族が向かってくる。

 その中には、クリナさんの姿も見えた為、こちらの援軍で間違いないだろう。

 

 (……これだけいれば、大丈夫だよな)

 疲れた俺は、獲物を離し、皆の邪魔にならない様に、距離を置く。

 

 次々と、餌に群がっていく仲間を一歩引いて見続ける。

 あの、逆方向に運ぼうとしている同族も、そろそろ諦めた方が良いのではないだろうか?

 

 俺は、その、匂いの違う同族の元へ行き、背中を軽く叩く。

 すると、再びパニックになった同族は、餌を離して、その場でグルグルグルグル。

 その隙に、俺の仲間たちが、餌を完全に包囲した。


 パニックが収まった、"匂い違い"が、餌に取り付こうとするが、俺の仲間に威嚇され、取り付く島もない。

 流石に、そのまま、諦めて、帰るだろう。俺はそう思っていた。


 しかし、それでも、尚、執拗しつように、ちょっかいを出し続ける、匂い違い。

 ついには、仲間の一人がブチギレ、匂い違いに噛み付く。

 匂い違いも、それに応戦し、二人は辺りを転げまわる。

 

 二人の争いを感じ取った、周りの仲間たちは、大パニック。

 しかし、その中でも、冷静なクリナさんは、真っ先に、争っている二人の方へ向かう。

 

 クリナさんは、争う二人のそばで、慎重に触覚を垂らすと、匂い違いが触れた瞬間に、相手に噛み付く。


 それによって、解放された仲間は、覚束無おぼつかない足取りで、逃げるように、戦線離脱。

 少し離れた場所で、落ち着くと、自らの体を舐め始めた。

 

 今度は、クリナさんと匂い違いの一騎打ち。

 二人とも、噛みつき合い、お尻から出る酸をぶつけ合い、殺し合っている。

 

 匂い違いは、連戦にも拘らず、クリナさんを押しているように感じた。

 戦っていた仲間が逃げ出した事も考えるに、俺達よりも、少し強いのかもしれない。

 

 下手をすれば、このまま、クリナさんがやられてしまう。

 周りの皆も、き散らされる酸と、危険信号の匂いで、未だにパニックの真っ最中だ。

 

 (くそっ……!)

 俺は意を決して、渦中に飛び込む。

 目視で、クリナさんを見分けられる俺は、タイミングを見計らって、匂い違いの足を引っ張った。

 

 (……よし!)

 匂い違いのターゲットが、俺に移り、クリナさんは解放される。

 しかし、他に意識を向けられたのは、そこまでだった。

 

 匂い違いの猛攻が、俺を襲う。

 俺は、何とか逃げられないかと、藻掻くが、そうは問屋が卸さなかった。

 

 匂い違いは、脚遣いが上手いのだ。

 それに、傍から見ただけでは分からなかったが、脚が俺達よりも、長い。

 その脚で、俺の体を絡めとり、逃がさない様にしているのだ。

 

 それにあの顎、俺達よりも肥大化している。攻撃のリーチが、若干だが、相手の方が長いのだ。

 加えて、あの発達した顎からの攻撃は、俺達よりも、強力だろう。

 

 これでは、皆が負けるわけだ。

 俺に勝てる要素がない。

 

 鋭く重い牙が、何度も、俺の急所をかすめる。

 

 俺は恐怖のあまり、藻掻く事しかできなかった。

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