第12話
牙の中でもがくカゲロウモドキ。
逃さない様に、俺は全力で喉元に噛みつく。
(うぉっ?!)
急に、牙から、獲物がすっぽ抜ける感覚。
如何やら、俺が首を強く噛み過ぎ、相手が暴れたせいで、頭が取れてしまったらしい。
頭から延びる神経の様な物、一本で、木の枝の上から宙ぶらりんになる、カゲロウモドキの体。
そんな状態になっても、カゲロウモドキは、羽をばたつかせ、体をよじらせ、必死に抵抗しようとしている。
……必死に生きようとしている。
(…………)
今更、そんな事をした所で、何の意味もないと言うのに。
俺はそんなカゲロウを、ただただ見下ろし続けた。
先程まで、興奮で
この状況を客観的に見る事を、心が恐れている。
……何か、
…そんな気になっただけだ。きっと、これは間違いではない。
これが間違いだと言うのなら、生物の
……まぁ、少なくとも、昔の俺よりは、間違ってはいないはずだ。
自分に、そう言い聞かせると、動かなくなったカゲロウモドキを引き上げる。
一息ついた俺は、辺りに転がった、アブラムシモドキを頬張る。
……やはり、美味しくはない。美味しくはないが、食べられる。
こいつらは、集団で生活していた。こんなに小さな赤ん坊から、大きな大人まで。
(………)
やめろ。虫
俺が育てて来た、子ども達にも無いし、死んでいった子ども達にも、仲間達にも無い。勿論、クリナさんにだって……。
そう思うと、なんだか、突然、寂しくなる。
この広い世界で、一人きり。そんな気がしてくる。
(……ごめんな)
食べきれなかった、アブラムシモドキを
皆、さぞかし、お腹を空かして待っている事だろう。
俺は、カゲロウモドキの上に乗ると、木から飛び降りる。
地面に落ちた時、カゲロウモドキの下敷きになる事を、防ぐためだ。
地面に落ちる浮遊感。
心の何処かで、今の、この感情を塗り潰せる物を求めていた。
しかし、あれ程、絶叫系が苦手だったにも拘らず、やはりと言うか、恐怖心は得られなかった。
(………何だ。平気じゃん……)
無事に着地した俺は、カゲロウモドキを引きずって歩き出す。
身も心も重たくなった、俺の足は、それでも、ゆっくりと、前に進んだ。
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