第9話
(……さぶぃ……)
目が覚めた俺は、辺りを見回ろうと、早速体を動かそうとする。
(また、これかよ……)
体に上手く力が入らずに、辺りをのた打ち回る俺。
もう、幼虫時代は言わずもがな、死ぬ寸前と言い、羽化したての頃と言い、とことん、この地面を這いつくばるスタイルに、縁があるらしい。
(……よいしょっと…)
違った点で言えば、今回は、時間をかけてでも、一人で起き上がる事が出来た点であろうか。
(俺も……。成長出来てるのかな……)
自分で思っておきながら、冷静になると、こっぱずかしくなって、触覚を舐める。
(さて、皆はっと……)
何とか、落ち着くと、気を紛らわす意味も含めて、辺りを見回す。
まぁ、そこら中に、気配と匂いを感じるので、見回すまでもないのだが。そこは、気分の問題である。
(………あれ?俺って、保育室で寝てたよな?)
周りに子どもたちの匂いがしない。
まぁ、気温や湿度の変化で、部屋を移動する事はよくあるし、俺が別の場所に、運ばれただけかもしれない。
俺は歩き出すと、保育室を探した。
探しに探した。
一部屋、一部屋、確認するごとに、足が
結果は、なんとなく分かっていた。
しかし、そうせずには居られなかったのだ。
(…………)
部屋をすべて回った俺は、食糧庫へ向かう。
中身は空っぽだった。
(……飯、探しに行くか……)
俺は、地上に向かって歩いていく。
お腹がペコペコだったのだ。
外に出ると、成虫である仲間の残骸が、無造作に捨てられていた。
冬眠前にも、病死したり、衰弱死した者の残骸が、多少は落ちていた。
しかし、これ程の量では無かっただろう。
こいつらも、冬場の寒さと、飢餓のせいで、衰弱死したのだろうか?
……まさか、生きている成虫にまで、手にかける様な事は……。
しかし、俺は、その残骸の香りを
(……俺も、腹が減っていて、あいつらが目の前に居たら……)
頭を振って、不穏な考えを
(さっぶ……)
外に出ると、冷たい風が、頭を冷やしてくれた。
(……皆が起きる前に、餌、持ってこないとな)
これ以上の共食いは嫌だ。
未だ、寒空が広がる、草原の下。俺は、当ても無く、
数十分歩いても、餌は見つからない。それは、そうだ、そんな簡単に見つかるなら、皆飢えてなんて、いないだろう。
(おいおい、勘弁してくれよな……)
冷たい空気に反応し、再び、冬眠に入ろうとしているのか、体に力が入らなくなってきた。
ただでさえ空腹で、力が入らないと言うのに、冗談が過ぎる。
腹が減って、ふらふらの俺は、傍から見たら、弱ってるように見えるだろうか。
腹が減っている俺は、餌の匂いが溢れる、巣の中で、耐える事ができるだろうか。
……俺はどうしても、手ぶらで家に帰るつもりにはなれなかった。
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