第7話

 カサカサカサ。

 辺りを這う音。

 

 ガチガチガチガチ。

 歯を打ち鳴らして、威嚇する音。


 クチャ、クチャ、グチャァ…。

 獲物を貪る音。

 

 羽音に、関節が動く音、あえて、器官を擦り付け合い、鳴らす音。

 様々な音や、振動が、暗闇の中に潜む、生物の存在を知らせる。

 

 不気味なんて物じゃない。目の前を音が通り過ぎて行っても、その存在が、何なのかすら、分からないのだから。


 (………帰るか)

 そうそうに諦めた俺は、回れ右。をして、もと来た道を引き返す。

 餌は幾らでもあるのだ。命をかけるなんて割りに合わない。


 俺は大人しく、仲間が群がる小さな穴へ向かった。

 多分、目玉があった部分だろう。

 

 そこから、肉を引き千切り、お腹の備蓄器官に貯める。


 少し、胃にも送ってみたが……。正直、家で支給される、配合済みの餌の方が、美味しい。


 期待していただけに、拍子抜けすると言うか……。

 心底、命懸けで、あの魔窟に入らなくて、良かったと思った。

 

 後は、持ち運べるだけ、肉を切り取って……。

 

 (うぉっ……)

 自身の半身ほどの、小さな肉塊であるのにも関わらず、普段、持ち上げている、サナギや、幼虫よりも重くて、驚いた。

 成虫になった俺らはもっと軽いので、自分達の軽さが、よく分かる。

 

 (……よっと)

 しかし、驚いただけで、自身より重いであろう、その肉塊は、軽々と持ち上げられた。


 そのまま、肉を一定の角度まで持ち上げ、重心を自身の体に寄せることで、安定させることができる。

 後は、バランスを取りながら、歩くだけ…。


 物を挟み上げるあごの強さと、持ち上げる首の強さが無ければ、出来ない芸当だ。

 我ながら、素晴らしい体の構造だと思う。

 

 バランスを取りながら、巣に帰る最中、何人かが、飛んでいる蜂のようなものと、巣の付近で戦っていた。

 

 (放って置けばいいのに)

 俺はそいつらの横を通って、巣の中に入る。

 

 (ふぅ……。ここは暖かけぇなぁ……)

 食糧庫に荷物を置き、一息ついていると、近くに居た後輩達が、俺の体を綺麗に舐めとってくれる。


 (愛い奴め!)

 俺が、舐め返してやれば、甘える様に、身を預けて来きた。

 

 そんな可愛い後輩を見ていると、他の子どもたちも心配になって来て…。

 

 他の子たちはお腹空かせてないかな……。

 仕事が乱暴なあいつに、世話されてないかな……。

 そう考え始めると、居ても立っても居られなくなり、駆け足で保育室に向かう。


 俺には、外で冒険をするよりも、家の中で、子ども達の面倒を見ている方が、向いている様だった。

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