第0章 ~生まれ変わった社畜が、最強のワガママを目指すまで~

第1話

 ………?

 俺は、目を覚ます。

 いや、実際には、何も見えないが、意識が覚醒した。

 

 俺は、おもむろに、体を動かそうとする。

 ………ダメだ。動かない。まるで、体を簀巻すまきにでもされているようだった。

 

 (もしかして、ここは病院で、アイマスクを付けられて、手足を縛られているのか?……最悪、手足切断のショックを受けて、暴れないように、アイマスクを付けられている可能性も……)


 (…いや、病院は、こんなに、ギチギチギチギチ、五月蠅うるさい物か?)

 意識が目覚めてから、常になり続けている異音に、俺は違和感を覚える。


 そんな事を考えていると、何かの振動が伝わって来た。

 俺は、無意識に、歯をギチギチと鳴らす。

 恐怖している訳ではない。お腹が減ったからだ。


 (……お腹が減ったから?)

 自身の行為に疑問を抱いていると、何かが、更に近づいて来る。


 俺は無心で、歯をこすり合わせ、ギチギチと音を鳴らした。

 そうしなければ、ならない気がしたからだ。

 

 すると、俺の口に、何か、甘みと旨味を含んだ、ドロドロとした液体が、垂らされる。

 俺は、必死にその、何かをむさぼった。俺は、思っていた以上に、お腹が減っていたらしい。

 

 (……あぁ。もう、行ってしまった……)

 口から離れて行った、何かに、未練を感じていると、次第に、冷静さが戻ってくる。


 (……なんだあれは?最近の医療食か何かか?

 それに、なんで俺は、歯なんて鳴らし始めたんだ?

 なんで、声が出ないんだ?)


 次々と浮かぶ疑問を解決する前に、俺は、何かに、ひょいっと、持ち上げられた。

 

 (ちょ、どういうこと?!)

 ひょぃっと、硬い何かで、挟まれるように、持ち上げらえた俺は、ブラシの様な物で、体全体を撫で上げられる。


 (き、きもちぃぃ……)

 恥ずかしいはずなのに、気持ちが良くて、快楽に、全身を預けてしまう。

 どれだけの時間そうした居たのだろうか、ブラッシングが終わると、また俺は、下へと降ろされる。


 (………はっ!)

 またも、正気を失っていた俺は、ブラッシングの感触を名残惜しく思いながらも、思考を回した。

 

 (今のブラッシングの感触からするに、俺の手足は、無くなっている可能性が高い。そして、看護師たちは、俺に意識がある事に気が付いてない?)


 (いや、体をくねらせたり、歯を鳴らしたりはしているんだ。声が出せないからと言って、通じていないと言う事は……。はっ!まさか、ここはSFの世界?!)


 そんな事を考えていると、また、食べ物を運んで来る振動が伝わって来る。


 (なんだ、何なんだあれは?!……ひょっとして、あの装置で、人間を太らせて、食べる気なのか?!)


 俺は、食われてなるものかと、きつく歯を閉じる。

 横から漂ってくる、美味しそうな香りは、拷問、そのものだった。

 

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