社畜転生 ~生まれ変わった社畜が、最強のワガママを目指すまで~
おっさん。
目覚め
第0話 プロローグ
ッ……!
俺、
開け放たれたカーテンの向こう。
寝起きの視界を、網戸越しの夏の日差しが容赦なく焼き焦がす。
カーテンが揺れていない。
風が無い。
常々、鬱陶しく感じていたの蝉の声が、やけに遠くに聞こえた。
……暑い。暑いはずなのに、寒気がする。体が、汗でベタベタする。
昨日も残業で…。だめだ、頭が働かない……。
「み、みす……」
上手く声が出ない。昨日、飲み過ぎたせいか?
喉が渇いた俺は、薄っぺらい万年床から、起き上がろうとする。
「あ、あれ……?」
立てない。体が上手く動かない。手足が、痙攣している。
「う、うそ…だろ……」
俺は、まだ自由の利く首を使って、何とか、体勢をずらすことに成功した。
……全力を振り絞って、できた事は、たったそれだけだった。
「だ、だれか……」
この薄い壁の向こうには、誰が住んでいただろうか?
誰も住んでいなかったかもしれない。
俺は、このアパートに住む住人の顔すら知らない。
「だれか……」
会社の人間は、今日俺が出社しない事に、違和感を持つだろうか?
気付いたとして、誰か、通報したり、助けに来てくれるほど、親密な奴はいただろうか?
「だれ、か…」
友人にも親にも、仕事の忙しさを理由に、何年も会っていない。
この頃は、もう、連絡すらない。
「だれ……」
俺の目の前をゴキブリが横切って行く。
その先には、先週、捨て忘れた生ごみの袋があった。
「………」
俺は死ぬのだろうか。
これが、会社が大変と言う言い訳を続け、自ら、行動しなかった罰なのだろうか。
「いやだ……」
死にたくない。あんな生ごみと、一緒になりたくない!
腐乱して、コバエや、ゴキブリの苗床になるなんて、嫌だ!
芋虫のように床を這い、のた打ち回り、玄関を目指す。
外にさえ出れば、外にさえ出れば……!
「…あいつ死んだんだってさ」
あれは、学生の時だったか。同じクラスで、虐められただか何だかして、不登校だった奴が、死んだらしい。と言う話だった。
「ふ~ん……」
俺は、興味なさげに答える。
いじめがあった事も、そいつが不登校になっていたことも知っていた。だから、本当なんだろうなぁ……。とは、思った。
でも、その時の俺には、目の前を横切るアリの集団を潰す作業の方が、重要だったのだ。
……なんで、あんな事してたんだろうな。
あのアリたちは、死んだと言う、生徒は、どんな気分だったんだろうな。
どうせ、こんな人生なら、あの時、俺が死ねばよかったんじゃないか?
………母さん。俺の遺品、引き取ってくれるかな……。
這う体力も、気力も無くなった、俺の前に、先程のゴキブリが、再び走って来た。
お前が、最後の見取り人か……。
最後ぐらい、誰かの役に立ちたかったが、腐敗臭と、害虫の温床じゃ、死んでも迷惑かけそうだ。
……でも、お前らには、良い餌になるか……。
ゴキブリは、触覚だけを動かし、こちらを見つめている。
……フヘヘッ。こんな状況でも、やっぱり、気持ちわりぃわ。お前ら……。
………俺の死体。有効活用、してくれよ……。
そこで、俺の無駄に長い人生は、幕を閉じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます