第10話:採掘
湖の横を拠点にしてから三日が経った。
レベルも7まで上がり、いくつかのスキルを習得して生活は充実している。
鞄以外にも木材加工でテーブルやイスを作り、動物の毛や皮を利用して寝具類も作成した。
「……これ、このまま狩人として生活してもいいんじゃないか?」
そう思ってしまうくらいの充実ぶりだ。
ただ、この森には人っ子一人いないので暇といえば暇である。
せっかくの異世界転生なのだから、少しくらいは異世界というものを味わいたいなぁ。
「魔法も使えないとなれば、これだとただのサバイバル生活だからなぁ」
日本でも無人島に行けば今と似たような生活はできるかもしれない。
……いや、それは無理か。
日本にはスキルという概念がないのだから、本来の俺のスペックでは水の確保もできず、食料の調達もできずに数日で野垂れ死ぬだろう。
この生活も、異世界といえば異世界なのかもしれない。
「さて、今日も探索に精を出しますか」
立ち上がった俺はナイフを手に森の中へと入っていく。
この森ではでか兎やでか豚が主に生息しており、一度だけでか蛇と遭遇した。
蛇皮は小物作りに重宝するのでもう一匹くらいは狩りたいのだが、なかなか姿を見せてくれない。
魔族に関してはゲビレットを倒して以来一度も遭遇していないので、もしかしたら珍しい存在なのかもしれないな。
「……あー、やっぱりでか蛇はいないかぁ」
あくまでも俺が探知できる範囲内ではあるが、感じ取れた気配はでか兎のみ。
旨いので食料としては重宝するのだが、それ以外の使い道が見つからないので、昨日からは不要な部位を燃やし始めている。
そのままにしてしまうと腐ってしまい悪臭の原因になりそうだしね。
「……今日は少しだけ奥に進んでみるか」
危険が伴うものの、行動を起こさないとこれ以上の発見もないだろう。
それに、俺が奥に進むと決断できたのには新しく習得したスキルが関係していた。
「危険察知に瞬歩。この二つのスキルがあれば、出会い頭で動物や魔族と遭遇しても逃げられる……はずだ」
狩人の気配察知と合わせた危険察知はナイスコンボだった。
普段は狩人で気配察知を使っているが、どうしても注意散漫になる時はある。
そんな時に役立つのが危険察知で、昨日も最後の探索では本当に助かった。
「あれ、危険察知がなかったら死んでたかもなぁ」
朝から探索をしていたので疲れが溜まっていたのだろう。
頻繁に行っていた気配察知を失念してしまった結果、五メートルくらいの距離にでか豚が突如として現れたのだ。
普通なら突撃されて終わりだったかもしれないが、俺はでか豚が姿を現す直前に顔を上げることができていた。
何かを感じ取った──それが危険察知によるものだったんだ。
「悪意というか、そんなものだったのかな、あれは」
嫌な視線、感情、空気。
そんな感じのものが俺にまとわりついたという感覚。
そのおかげで俺は即座にナイフを抜いて、間一髪倒すことができた。
そして、その倒す時に発動させたのが瞬歩でもあった。
俺の足では五メートルの距離を一瞬で詰めることなんて無理に決まっている。
だが、瞬歩を発動すると一歩踏み出すだけででか豚の真横に移動することができた。
「まあ、スキルレベルが低いから使いどころは間違えられないけどな」
瞬歩の使用回数は一回だけで、一度使うと三〇分のクールタイムが必要となる。
連続では使えないので、結局のところ常に警戒が必要だということに変わりはない。
ちなみに、危険察知の方はレベルが上がると察知できる範囲が広がるようだ。
「……あれ? スキルレベルも使い続けることで上がるんだよな、危険察知はどうやってレベル上げするんだ?」
そんな頻繁に危険に身を晒すわけにはいかないし……まあ、いっか。
今はスキルレベルよりも奥に進むことに集中だ。
三日が経ったものの、いまだに鉱石を手に入れることができていない。
金属加工と採掘を無駄にしないためにも、俺は鉱石が眠っていそうな岩場を見つけて、鉱石を手に入れなければならないのだ!
今までに探索した範囲を越えてからは気配察知を普段よりも頻繁に行う。
未探索の場所なので動物も結構多い。本来ならばレベル上げも兼ねて狩っておきたいところだが今回はパスだ。
ここで狩ってしまっても、持ち帰ることができないんだよね。
鞄には鉱石を入れる予定だし、そもそもでか兎もでか豚もでかくて重い。
帰りならまだいいけど、行きだと引きずりながらずっと移動しないといけなくなるのだ。
「放置しておくと、共食いの姿を見るはめになりそうだもんなぁ」
それに、ゲビレットはでか豚を食べていた。
動物の死骸目的に魔族がやって来ないとも限らないしな。
今だけはなるべく避けて進んでいく必要があるのだ。
「もう一度気配察知……あれ? この先、なんか変だな」
いつもの感覚とは異なり、途中で何も感じ取れなくなってしまった。
途切れる、という感覚ではない。
ぶつかる、という感覚が近いかな。
「……ということは!」
俺は周囲に何も気配がないことを再度確認して、気配察知が途切れる方向へと進んでいく。
そして、ようやく見つけたんだ──岩場を!
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