第9話:ゲビレット
拠点にしている湖に戻った俺は早速ゲビレットを細かく観察することにした。
鑑定スキルのレベルが2に上がったことで、対象の使い道が部位ごとに分かるようになっていたんだ。
「まあ、人間っぽい見た目で牙とか角とかがあるわけじゃないし、ほとんど使えないみたいだな。食料としても……無理みたいだし」
食べれたとしても人間に近い見た目のゲビレットを食べようとは思わないかな。
ただ、スパッと斬れたもののその外皮は貴重な素材のようで俺はナイフで丁寧に剥ぎ取っていく。
あぁ、やっぱりこの作業はまだ慣れないなぁ。特にゲビレットは見た目が……うぷっ!
……ふぅ、一波越えたな。
苦戦したものの、外皮を剥いだ時にはこいつの使い道を思いついていた。
「この外皮を使って鞄を作ってもいいかもしれない」
剥いだ外皮を引っ張ってみると、柔軟性がありとても丈夫で簡単には破けそうもない。
二メートルくらいあったゲビレットから剥いだので外皮の量も結構あるのだ。
「とりあえずやることもなくなったし、ステータスを確認するか。下位とはいえ魔族だ、レベルも一気に上がってるんじゃなのかな~」
少しだけ期待しながらディスプレイを見ていくと──
「おぉ! レベルが3から5まで上がってるよ!」
一気に2も上がったとなれば、スキルの振り分けが楽しみになってくるな。
スキルの画面に移るとスキルポイントが今回は11となっている。
「レベルが5になったから、レベル1あたりのスキルポイントが増えたのか?」
……まあ、多いに越したことはないか。
忘れないうちに木材加工スキルを習得して残り8ポイント。
次に鞄を作るのに必要となる道具を考えていく。
「糸が必要だけど、代用品になりそうな物は……おぉ、近くにあるじゃん」
湖の近くの木にぶら下がっていた蔦があるんだが、それを鑑定すると使い道の部分で糸の代わりになることが分かった。
もちろん蔦の繊維を剥いだりとやることはあるのだが、それでも代用品が見つかったことはラッキーである。
「あとは針なんだけど、これは……あー、なるほど、これを削ればいいのか」
ゲビレットの歯。
先ほどまでは使い道が出てこなかったのだが、俺が針が欲しいと思ったからだろうか、再度鑑定をしてみると針の代わりになると出てきたのだ。
糸も針も加工は必要だが時間はたっぷりあるし、野営の準備ができたら作業に取り掛かろうかな。
「まあ、準備とはいっても特にやることもないんだけど」
すでに火種は手に入っているし、その時になれば火を起こして寝るだけだ。
まさかいきなり寒くなるなんてことはないと思うけど、もしそうなったらすでに剥ぎ取っているでか兎の皮を毛布にして寝てもいいだろう。
「……俺、結構適応しているんじゃないか?」
そんなことを考えながら残りのスキルを見ていくことにした。
目に留まったのは金属加工スキルである。
俺の手元には金属なんてないが、もし近くで手に入ったなら調理道具を作ることができるかもしれない。
4ポイントも消費してしまうが、その価値はあるだろう。
その他だと潜水スキルが気になった。
なぜかというと、俺のすぐ隣に湖があるからだ。
とても透明度の高い綺麗な湖なのだが、その底は見えないくらいに深い。
もしかしたら湖底にお宝でも眠っているんじゃないかと勝手に想像してしまった。
「金属加工が4、潜水が2、残るは2ポイントか」
ポイントを温存しておく手もあるが、とりあえず2ポイントで有用なスキルが習得できるかを探していく。
「……ん? 採掘スキルか」
採掘と聞いて思い浮かんだのは、金属加工とも関係性が高い鉱石の採掘だ。
ちょうど2ポイントで習得できるし、この三つを習得するので問題はないかもしれない。
「また賢者への道からは遠ざかることになるけど、今は仕方ないよな……うん、仕方ない」
俺はそう自分に言い聞かせて金属加工、潜水、採掘スキルを習得した。
「さて、日も沈んできたことだし、森に入るのはもう止めとくか」
そう言って立ち上がった俺は火を起こしてから近くの木へと向かい蔦を切り取り、ゲビレットの歯を剥ぎ取る。
そして火の近くに腰掛けてから加工を始めた。
蔦に切れ目を入れて繊維を剥いでいく。
思いのほか丈夫な糸もどきが手に入ったので代用品としては申し分ない。
ゲビレットの歯もこのナイフを使えばすぐに削ることができたので、一時間もしないうちに針も作ることができた。
「それじゃあ、鞄を作りますか」
ゲビレットの外皮は本来硬いはずなのだが、その本人の歯を加工した針だからかすぐに刺さってくれた。
「なるほど。だからでか兎やでか豚の歯だと針としての使い道が出てこなかったのか」
その素材が持つランク、みたいなものだろう。
同ランクの外皮と歯だからこそ、今みたいに簡単に縫い合わせることができている。
さすがに鞄作成には時間を使ってしまったが、それでも二時間程度では完成させることができた。
「……うん、悪くないんじゃないか?」
肩から下げるタイプの鞄だ。
この中に簡易食料や必要になるかもしれない道具を入れておけば、いざという時に役立つだろう。
──ぐううううぅぅ。
「……よし、晩飯だ!」
俺はすぐに捌き済みのでか豚の肉を串に刺して焼いていく。
料理スキルがあるのでもっと美味しく作れるのだが、今は早くお腹を満たして眠りたい。
食事を簡単に済ませてお腹を満たした俺は、明日の予定を決めることもなくそのまま泥のように眠りについたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます