骸骨兵士
国王を拘束しているのは――守るはずの
巌窟王スルトや勇者チートに直接挑もうとしても、彼らに拒まれる事でしょう。彼らを操っている者がおるとアーサー殿は言いました。
それは魔王ルシファーが倒れたあと、急激に権力を持ち、
インキュバスの王『ラース』で御座います。その者はコロッセオにも姿を現しませぬ。
数キロ離れたベナール城を占拠し、多くの魔物や人間を従えてステイ・ホームで御座います。敵ながら、うまい手を打ちますようで。
第三試合はベナール王、直属ハンス王子対アーサー王子。第四試合は巌窟王スルトと魔物評議会。三日目、第五試合はアーサー王子と魔物評議会。第六試合は巌窟王スルトとベナール王と書いてあります。
朝の明るい空に演者の声が響いておりますが、誰も聞いてはおりません。プログラムに書いてあります故。
「王都ベナールに住む住民よ。この日、国王の騎士と、その息子アーサー王子との騎士があいまみえることとなる……」
ベナール王の陣営は監禁に近い状態で御座いました。ハンス殿は
老騎士ターネル殿も、先の戦闘での無理が重なり床に伏しているといいます。本来ならば直ぐにでも駆けつけたい状況で御座いましょう。
コロッセオに姿を現したのは捜査騎士フレイと剣闘士マックス。そして老騎士ターネル殿で御座いました。
老騎士は立っているのも不思議な状態で御座いますれば、とても不憫で見ては居れませんでした。
ハンス殿はアーサー王子の陣営から、真っ直ぐに闘技場を走り抜け、老騎士の腕を握りました。
「ハンス王子。ご無事でしたか」
「ターネル、よくやってくれた。クラインは苦しまずに逝ったのか」
「……ええ」
「俺と
そうは言われても老騎士はうつむいたまま黙っておりました。アーサー殿の陣営からは、ユニコーンと燕と熊の紋章を持った三騎士とアーサー殿、御本人で御座います。
髭もじゃ中年軍団では御座いません。家紋を継ぐ長子で御座いますれば、アーサー殿と同じ十六歳位の三人で御座います。
その長男四人組、失礼しました。熊の紋章は女性で御座いますれば。長子四人に続いて、手前とハンス殿もコロッセオの中に歩いております。
「な、なんとアーサー王子の陣営は、燕の騎士ズワルウ、一角獣の騎士アインホルン、熊の騎士シオン。彼らは亡き王妃の
カタカタ
カタカタ。
演者がお困りの様子でした。大幅なメンバー交代で御座いますれば。十の災いは未だ終わってはおりませぬ。
毒蛙におかされ苦しんでいる者や、虻や虫に刺され腫れものに苦しんでいる民は国中に溢れております。
岩窟王スルトが、災いを止めているにすぎませぬ。なれば、家紋を継いだ長子自らがこの闘技場に名を知らしめるのは親のささやかな気遣いやもしれませぬ。
「ハンス王子の陣営は、剣闘士マックス、捜査騎士フレイ、骸骨兵士!? 下級魔物、どういうことで……やる気があるのでしょうか」
戦う気など御座いましょうか。闘技場に法など在りませぬ。民衆の前で、ふたりの王子は手首を握り合い、上下の無い同等の握手を交わします。
そして巌窟王を見上げながら、宣戦布告を訴える……はずでした。
宙にぼやけた白い光――ゆっくりと時空の網が織りなされていくのが見えました。
ためらいがちに現れたのは、魔法使いの服装をしたアンナ様と黒革のグリフ殿。全身に封印術を施された簀巻きの男と、従者の軽鎧を着たパピィです。
「おら、場違いな場所に出た気がするだ」
「せめてパッと出てくればまだ良かったけど、地味な登場ですわね」
「仕方ないの。ジムの魔力はちびちびしか使えないし、闘技場も街も魔法障壁があって出られないかったの」
コロッセオの中央席に座っていた巌窟王スルトは黒いマントをなびかせ立ち上がり、勇者と演者を見ました。勇者チートは腹を抱えて笑っておりました。
「ぷっ……くははははは、何の祭りだよ。へっぽこ軍団のオンパレードじゃないか。これも君の予想の範疇かい?」
スルトは、演者に王冠を投げました。この王冠は離れた映像を目の前に映すことのできる王家に継がれる魔道具で御座います。そして魔物評議会と、どこかに合図を送りました。
「もっと、面白くしようと思ってね。勇者よ、貴方が見極めてくれ。誰が新しい王にふさわしいか。どうだい?」
「まあ、僕としちゃ君が生き残ってくれれば問題ないけど。ちゃんと平和にしてくれないと、帰れないからさ」
「なら、さっさと決着したほうがいいだろ」
左右から、二匹のオーガと一匹のオークが闘技場に飛び込みました。そしてスルト本人も、宙を舞いながら闘技場に降り立ったのです。
瞬間、闘技場の地面が真っ黒に変わりました。そして王都の地下に広がるダンジョンへ四大勢力が飛ばされたのです。
――岩窟王スルトと三匹の魔物。
――ハンス殿にマックス、フレイとグリフ。
――
――アーサー王子と紋章の三騎士。
どこで戦闘が始まっても、王冠から闘技場に映像が流れるようになっているようです。四つの勢力が下層から上層を目指し、戦うという構図で御座います。
『はて、手前は何故ここに残っているのでしょうか……』
客席の一画にアンナ様とパピィ。簀巻き男に、老騎士ターネル殿もおりました。
「
『あ、アンナ様。どうやら手前らはスルトに選ばれなかったようで』
アンナ様は簀巻き男を掴みあげ、問いただすように揺さぶりました。
「どうなってるのよ。これじゃ
モゾモゾと簀巻きが動き、それがジムだと分かりました。何か話そうとしておりますのをアンナ様が聞いています。
「モゴモゴ……」
「何っ! ち、ちん○を出すですって?」
『なんと不謹慎な。簀巻きのままドブに捨てましょう』
「モゴモゴ、ヒント……ヒントだ」
『聞きましょう、アンナ様』
ジムは簀巻きを解けば、巌窟王に意識を支配されてしまうそうです。僅かに出来るのは手前らに助言をすることだけなのです。
彼らが持ちこたえている間に、手前らは倒さねばならない相手がいるようです。パピィは慌ててジムに詰めよりました。
「グリフは、グリフは蚊も殺せないのよ。この迷宮に入るにはどうしたらいいの?」
「言えない。言えない理由も言えない。つまり言えないことが二つ。だがヒントなら出せる」
「こうなることが分かっていたのね。相談しようとは思わなかったのかしら?」
パピィは簀巻きのジムを乱暴に持ち上げ、睨み付けて首を締めておりました。
「今……思ってるけど」
手前らはジムと老騎士をコロッセオに残し、ベナール城を目指すことにしました。すべての守護騎士を操るラースを倒すのです。
擬人化をといて先に飛び立ったパピィ。手前とアンナ様は目抜通りを走りました。脇道から、猟犬が飛び出し合流致しました。
ワンワン
ワンワン!
「
『ベス殿が、拐われたそうで御座います。ちょうどベナール城へ向かっております』
巌窟王スルトは手前やアンナ様を、雑魚の脇役と判断したようです。確かに手前らは英雄とは程遠い、物語にも登場しない脇役で御座いますれば。
手前は先ほど中央席に鎮座した青い鎧を着た勇者を見ました。
彼は手前を見向きもしませぬ。彼だけでは御座いません。誰一人として、手前やアンナ様に目を向けませんでした。
奇妙な遠い世界のような気がしました。人々が見ているのは恐れと憎しみ、驚きと興奮に満ちた世界で御座います。
ですが、壮大で荘厳なのは表面だけで御座います。その彼方にある無を見て、目の前の物を見ていないようです。
憎悪や恐れは偽りで御座います。人々を敵対させて、奴隷へと貶めるのです。
まずは
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