人面鳥パピィ
――何て可愛いのかしら。
またまた大人になっているアンナ様が、色々と説明をしてくれているのだけれど、入ってこないわ。
ふんわり広がった赤髪は少しワイルドな印象、大きく潤んだ瞳と長いまつ毛は、幼女のままの清純さがある。
切れ長の眉毛と口元、さらにこの大きな胸は、凛々しくてセクシーな女性そのものだわ。あらゆる部位で表現される表情がとにかく可愛いのよ。絶妙すぎるバランスに、ついつい同性なのに見とれてしまうわ。
「猫耳まで付いたら反則じゃないかしら。美のオーラすら感じるわ。可愛すぎて……変な感情だわ。母性愛かしら。もしかして同性愛?」
アンナ様が大人に変身したのは、つい先ほどのことよ。猫耳が付いてるけど、それ以外は以前の大人アンナ様に戻ったというわけ。
獣人フォックスピッドの能力は自己犠牲が根底にあったのよ。他者への奉仕の精神は素晴らしいことだと思うわ。それは悪いことじゃないし、必要なプロセスだった。
その上の段階にアンナ様は到達したわ。自己犠牲は他者も犠牲にしてしまう。そうではなく、溢れ出す内側の輝きを放出する段階というのかしら。
犠牲者なんて居ない、自分らしく――自分の内なる力を解放すること。美しいアンナ様を見ていて、これは自分自身を輝かせることなんだと感じたわ。
自己中心的な思想を持つってことじゃないのよ。グリフに理解してもらうのは無理かもしれないわね。
「パピィも可愛いだすよ」
「知ってるわ。鏡なら見たから」
「……とにかく凄い自信だす」
具体的にいうと、アンナ様は獣人の能力に覚醒したということ。風・火・地・水の四大元素に並ぶ五つ目のエレメントを掌握したということ。
アカシック・レコードをリーディングして全ての魔法を使いこなし、ユグドラシルの樹にアクセスして魔力の流れを操り、霊能者になって、チャネラーになったの。
もうそのくらいでいいでしょ。私が何でも知ってると思わないで。天才だから大抵のことは知ってるけど。
とにかく……なんて可愛いのかしら。怒った顔も、とっても魅力的。
「聞いてるのっ、パピィ!」
「え、ええ、アンナ様。どうして怒っているんでしたっけ」
そうそう、見とれている場合じゃないわ。どれほど獣人の力に覚醒しても魔力がなくちゃ何も出来ないって話だったわ。
魔力ゼロのはずのアンナ様にも何故かMPが30もあったのが救いね。少ない方だけど、私の二倍もあるんだから贅沢は言えないわ。アンナ様は教えてくれた。
「魔王バエルは元々は天使だった。彼が分けてくれた光の魔力のおかげなの」
「フレイが殺しただすから、あいつは絶対に地獄行きだす」
「……それは許してあげて欲しいの」
魔力さえあれば、アンナ様は最強よ。あのスルトの背後へ
彼の場所も、ジムの魔力の痕跡を追えば突き止められるでしょう。スルトと契約した獣人ジムは、まっすぐアンナ様を襲ってきた。
リーバーマンは危うく命を落とすほどの重症を負って今はマイロの村で療養中よ。安全のためレオが見ていてくれている。
覚醒したアンナ様は、ジムが見たくない物を見せた。ほんの五分だけで魔力は尽きたけど、ジムを取り押さえることが出来た。彼が気を失ってくれたからよ。
「ギリギリだっただすよ。魔力のタイムリミットが五分なのに、パピィは考えるのに五分ちょうだいって言うんだす。パニックだっただすよ」
「あら、グリフだって……五分あれば余裕だす。縛るのに三分、魔法陣に移すのに三分だすなんて言ってたけど、足したら六分だからね」
「……おら、そんなこと言ってただすか」
「喧嘩はしないでっ。ジムを問い詰めて、スルトを止める方法を考えるの」
ジムは魔法陣に囲まれて魔力を吸いとる植物系の荒縄に縛られ、鋼鉄首輪に鎖を何重にもつけて黒革のさるぐつわをして銀糸のガーゼでくるまれて、魔法封印された密室に閉じ込めているわ。
擬人化の解けた老フォックスピットだから、少し可愛そうに見えるわね。でもこういう事は、やり過ぎな位で丁度いいのよ。実際にジムの特殊な能力は計り知れないんだから。
「起きなさい、サイコ野郎」
「それはどう見ても私のセリフだろ」
状況だけ見たら確かにそうね。なんて悠長にしている時間は無いわ。
「闇払いのブーケに魔法陣。今はスルトに操られていない状態のはずよ。私たちに協力して貰えないかしら?」
「アンナさんなら、私と同じように空間移動も出来るんじゃないのか。私は彼に出会ったら、また正気で居られるとは限らない」
「ギリギリだすよ。空間の移動は出発と着地にMPを20ずつ使う計算だすから」
「ぶっ……全然足りないわ。グリフは無理に計算しないでいいわよ」
「配達員を舐めちゃいねだすか? パパリフィルが魔法使いの服ってやつを用意してくれただすよ。簡単にMPアップだす」
鎧戸をあけると、アンナ様は魔法使いの服を着て立っていたわ。私は思わず膝の力が抜けてしまったわ。
「なんて可愛いのかしらあああっ!」
「ぶっ……もうやめてよ。ちょっとエロくない? サイズもピチピチだしフリフリだし恥ずかしいの」
黒のミニ丈ワンピース。黒革のニーハイブーツと揃いの手袋が、白い肌を際立たせている。確かに魔力が10ほどアップしている。
しかも魔力自動回復まで付いている。猫耳魔法少女のコスプレはマニアックでコアなファンが城の外に並んでしまうことも心配だわ。
ちょっと魔法のステッキを持ってポーズをとって貰えるかしら。これならグッズが飛ぶように売れるわ。
いつか薬屋をやろうと思っていたけど、サイン入りの魔法使いグッズもありね。
媚びてないのが良いわ。そういう展開で必然的にこうなったんだから。でも、ジムは目を伏せて言ったわ。
「それでもスルトには勝てない。余計なことはしないことだ」
「勝てないだすって?」グリフは真剣な目をして言ったわ。「それはこっちのセリフだす!」
「こっちのセリフじゃないでしょ。方法はあるんだからね。魔力回復のアイテムだってあるんだから、ほら!」
「アンナ様、それはただの精神安定剤ですわ」
「ぷっ、プハハハハ、アハハハハ!!」
急にジムは大きな声をあげて笑いだしたわ。猫みたいに身体をくの字に曲げて腹の底から笑っていた。少し馬鹿にされてる気がしたわ。
「す、すまない。変な意味じゃないんだ」ジムは息を整えて言ったわ。
「私には五番目のエレメントが何か、さっぱり分からなかった。でもアンナさんや君たちを見ていて分かった」
それは喜びに溢れた力だという。獣人だから特別にある能力ではない。それぞれのやり方を見いだすことが大切だと。
自分を輝かせることは、自分にしか出来ない。その方法は人それぞれだが、内なる力は誰しもが持っていたのだ。
「……天才実験魔法学者に分かるように言ってもらえないかしら?」
「五番目のエレメント、それは愛だ」
「………おっ、ふぅ」
まさかジムがそんな恥ずかしい言葉を口に出して言うとは思わなかったので、あやふやな返事になったわ。
「おらも、そう睨んでいただす」
グリフが乗っかりだしたので、腹が
「分かったのねっ、そうよジム。この能力は世界中にある愛の心を繋げることが大事なの」
おっ……ふおぅ。アンナ様が『愛』について意見するなんて予想外だったわ。
私だったら、これを性善的集合意識の共有による時間プロセスの跳躍能力と呼ぶけど、呼び方なんてシンプルな方が素敵ね。
「なら、四人で王都に跳びましょう。何も怖がる必要なんてないわ。愛があるんですもの」
「おっ……ほおぅ。まさかパピィが愛を語るとは思わなかっただす」
「なっ、旦那様にそう言われるとは。私もまだまだね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます