グリフィン
古い仲間たちは毒蛙の襲来に立ち向かい、街の人間や魔物たちを助けに回ったんだす。
オラは翼が無くて悔しかっただすが、本当にうれしく思っただす。グリモールは同族のグリフィンだけじゃなく、街で擬人化した魔物たちを率いて人間を助けてまわったんだすよ。
オラは仲間たちを誇りに思うと言っただす。パパリフィルとリフィルは街はずれの厩舎にオラを連れてきて聞いたんだす。
「それで……あの
「凄く頭がよくて、オラにわざとうんこを踏ませたり、訛りが酷いとか言うんだす」ちょっと口が汚いのは許して欲しいだす。
「ストローの使い方も知らなくて笑われただす。引っ越しても住所は教えてくれないし、魔女の帽子や緑水晶を持ってこいなんて、無茶苦茶言うんだすよ」
「……い、嫌なヤツなんじゃないのか?」
「そうだす! そうなんだす。最低だすよ。オラ、頭にくることばかりだす」
「性格はいいんだよな?」
「いいやぁ、お高くとまってオラを見下したり、魔法をひけらかしたりするだす。多分、あんまり良い性格とは言えないだす」
「き、嫌いなのか?」
「嫌いだすね。大っ嫌いだす。本当に困った人面鳥なんだす」
「その大嫌いな人面鳥を何だって?」
「愛してるだす」
「………ぷっ」
パパリフィルはうなだれて頭を掻いていただす。なんで笑いを堪えているのか分からなかっただす。こっちは真面目だす、大真面目だす。
リフィルはパパリフィルの許可も取らずに厩舎から一番速い馬を持ってきて、オラにくれたんだす。
「行くんでしょ?」
「街がこんな状態のときに、すまんだす」
「いいえ。こんな時だからこそ、行かなくちゃ駄目よ」
「二人とも、有難うだす。本当に、本当に」
オラはリフィルを抱きしめただす。パパリフィルはオラの肩をそっと抱き寄せただす。
聖霊の加護がありますようにと、祈ってくれたんだす。それから馬を走らせて三日後くらいだすかな。
機転を効かせたオラは、プリンスガードの鎧を着けてバックマン城に紛れ込んだんだす。
ここの騎士たちは魔物を何とも思っちゃいなくて、特に魔物捜査官は簡単に
プリンスガードの鎧を着ながら、バックマン城の衛兵の兜をかぶって、どっちにもいい顔をしていたら、いつの間にか何かの討伐隊に入れられちまったんだす。
オラは、やっとパピィとアンナ様を見つけたんだす。サイズが無かったみたいでアンナ様は肩当てと腰当てを外した
後ろに揃いの従者姿のパピィを見つけてオラの胸は高鳴ったんだす。でも横にずっと魔物捜査官がいたもんで、なかなか近づけなかったんだす。
見られそうになったら、視線から避けたんだす。オラ、避けるのだけは上手いだす。だんだん捜査騎士フレイという男が憎らしくなってきただすよ。あっちはシーカー、こっちはストーカーだすもの。
暫く、男の視界に入らないよう後ろから付いていただす。そんなオラはショートソードの柄を握り締めていただす。
この人はアンナ様を完全に人間だと思っているみたいだす。そしてパピィは従者だから魔物でも、特別に許しているみたいだす。
どんなに良い人間に見えても騙されないだす。魔物捜査官こそが冷酷非道な悪魔だと言っていただす、リフィル達が。
暗闇の回廊でオラはそのチャンスを得たんだす。擬人化し亡命した仲間を売った張本人、非道な王子直属の捜査官フレイを殺す。オラは覚悟を決めただすよ。
奴がアンナ様に手を伸ばした瞬間、オラは押さえ付けて後ろに引っ張りこんだんだす。頭を押さえ付けて剣を振り上げたんだす。
彼は震えていただす。彼の考えが少しだけ分かってしまっただすよ。まあ、結果的に餓鬼界の魔王の攻撃から助ける感じになっただす。
緊急事態の真っ只中、兵士たちは混乱して無法地帯と化していただす。オラの足もガクガクと震えて、頭は真っ白になっただす。
バサバサッ……バサバササッ……。
「キエエエエーーッ!」
我が愛しのパピィは翼を広げて、勇敢に蜘蛛の悪魔に威嚇をしただす。鳥は一応、蜘蛛の天敵だすから奇声を上げて脅かす作戦だす。
それにしては相手が悪すぎるだすよ。オラは蜘蛛魔王の視界から逃げるように、フレイを引っ張るとアンナ様とパピィより前に出るように努めただよ。
援護で地味に役に立っていたんだす、言わずもがな分かるべきだす。兵士たちはオラに叫ぶんだす。
「たっ、助けてくれ」
「駄目だ! とても助からない」
結果的にオラは、人間を助けるのに手一杯になっちまっただす。蜘蛛糸がベタベタして時間がかかっただす。何しに来たのか分からんだすよ、まったく。
「悪魔だっ! 悪魔だっ」
「だから何だすっ。オラは二人の美女を助けに来て、忙しいだす。お前らみたいな脇の下が臭い兵隊は嫌いだすよ」
こういったら何だすが、オラはパピィに死んで欲しくないから仕方なく人間を助けたんだすよ。勘違いしないで欲しいだすな。
戦力は多くないとまずいだすし……助けてくれって言われて無視出来るほど、オラの心は広くないんだす。
オラが蜘蛛糸から人間を助けている間に、捜査騎士フレイは背後から蜘蛛の魔王を倒しただす。あの野郎は、目を離した隙に手柄を一人占めしやがっただすね。
でも、王子と騎士たちは更に下層にいる魔王を討伐に行くつもりだそうだす。オラみたいな脇役が語り継がれることは、まず無いんだす。
さっさと支度した騎士フレイやアンナ様は皆と一緒に進軍を始めたんだす。ベトベトのぐずぐずのオラと半分以上の兵士は、この細長い
ちび王子は後からゆっくり来いと言って、先に行ってしまったんだす。怪我人には
少しずつしか回復しないから、ほとんどの兵士はイビキをかいて寝てたんだす。気持ち良さそうに寝てる兵士たちが恨めしかっただす。
悔しくて悲しくて涙が出ただす。自問自答しただす。何でオラはこんなに苦しいだすか。こんなに辛いんだすかと。こんな気持ちになったことは今まで一度も無かったんだす。
その問いかけの答えは、ガア……ガア……とか、グウ……グウ……だす。その時、声がしただす。
「どうやって、ここに来たの?」
「ぐすっ……配達員を舐めちゃいねだか」
見上げた先にはパピィがいたんだす。どういう訳かひとりで、引き返して来たんだす。オラは鳥肌がたっただす。元から鳥だすけど。
「何しに来たのよ」
「ほ……ほら君が忘れてったから、これを持って来たんだす。きっと探してると思って」
彼女の壊れた髪留めをそっと見せたんだす。白いワンピースに似合う可愛いやつだす。
「……それ、壊れたから捨てたやつよ」
「本当だすか? 知ってたら持って来なかったのになぁ、三日もかけて」
「見たら分かるでしょ」
オラはかっこよく立ち上がったつもりだすが、ベタベタの腰当てが脱げて落ちたから、間抜けに見えたかもしれないだす。
「どうして、どうして来たのよ」
「あいし……あい……アイテムだすっ! アイテムを持って来たんだすよ」
「なっ、何のアイテム?」
「あ、ああ。さっきの戦闘で無くなっただす」
「……うそね」
「いてもたっても居られなかったんだす。君はオラとは正反対だすよ。君は天才でオラは馬鹿、君は真面目で、オラは馬鹿。君はきっちりしてて……オラは馬鹿。オラは取り柄の無い馬鹿だすか?」
「ふっ…貴方は馬鹿なんかじゃないわよ」
「そうだす。それにオラは漆黒の弾丸……もう、違うから……やっぱり馬鹿かも」
「貴方はイケメンだし、優しいし、行動力もあるわ。でも、ここには来るべきじゃなかった」
「愛してるだす」
「……なっ!!」
「言っただすよ、愛してるんだす。ちゃんと聞いただすな。もう一度言うだか?」
「……え、ええ。私もよ」
「そうだすか。じゃあ、忙しいから帰るだす。って今、何て言っただすか」
「私も愛してるって言ったのよ。でも時と場所を考えてちょうだい。無事に帰れる保証はないのよ」
思わずオラはパピィを抱きしめただす。力一杯に抱きしめただす。本当は、かっこよく颯爽と現れてパピィを守りたかっただす。
誰かに告白したのは初めてだす。好きになったことは、あっただす。昔に飼っていた亀を愛しただすが、それとこれは同じじゃないだす。パピィもちゃんと分かってくれたようだす。
「同じだったら困るわ」
彼女が泣いていたから、もう離れないって決めただす。これからどうなろうと、オラは彼女を守りたいと神様に言っただす。
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