011 ミルズ
「ひえええ!」
「モッ君護衛でしょ!」
「ムリッス!」
つい二時間前まで私たちはのんびりハクライの街に向かっていた。けれど魔物化した鳥の怒りを買い、全速力で逃げる羽目になっている。ハクライの街にはまだ距離がある。
「あ、星降る森に行こう! カフェが出来たって聞いたから」
「……冒険者がいるかもしれないっスね!」
方向を慌てて変えて走る。一応モーリアスは護衛なので私の後ろを守ってくれている。けれど件の鳥は大きくて爪も鋭い。力も魔法も強いけれど、体が小さい彼が倒すにはちょっと難しそうだ。
とにかく早くユーゴールードの森へ、とがんばって走った。
ユーゴールードの森に着いてもまだ鳥は追ってきていた。しかも森には新米冒険者が複数いた。このままではまずい、とモーリアスに指示を飛ばす。
「モッ君、足止め! ……ごめん、誰か強い人呼んで!」
私もモーリアスの少し後ろで足を止めた。背負っていた鞄からいくつかの薬品を手に取ると投げる。弧を描いて魔物化した鳥にぶつかると、シュワッと泡が立ち上る。ただの足止めだが、少しでも時間を稼がなければ。泡はただの泡でしかない。続けて別の薬品を投げる。鳥にぶつかると激しい音と光が立ち上る。
モーリアスが斧を構えて収束するのを待っていると、晴れた瞬間に鳥が飛び出してきた。
「クッ……!」
「モッ君!」
斧で鳥の嘴を防ぐ。しかしこのままの体勢から崩すことが出来ず、にらみ合う。
攻撃手段となる薬品はあるが、私の腕ではモーリアスごと攻撃してしまう。迷っていると、背後からシュッと風を切る音が走った。私の横を抜け、モーリアスの脇を通り、魔物化した鳥に刺さる。痛みと驚きもあってか、悲鳴を上げて飛び退る。
「オオヒスイドリか。お嬢さんは後ろへ」
執事姿のエルフが音もなく横に並ぶ。後ろの方では新米らしい子たちが数人様子を
伺っていた。
「助かったッス!」
モーリアスが目は鳥に固定したまま、エルフの人に礼を言う。
「よく持ちこたえたね」
そう言いながらエルフの人は空間から弓を取り出した。弓を引き絞る仕草をするが、矢は見えない。不思議に思いながら、目を凝らすと矢は魔法矢だ。うっすらと魔力の塊が見える。矢は放たれるとまっすぐに鳥へ向かい、目を打ち抜いた。とどめにナイフが胸元へ飛んでいくともう動かなくなった。
最初に飛んでいったものもナイフのようだった。
「お疲れさま。素材はいる?」
涼しい顔で問うエルフの人に、私の腰が抜けた。
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