010 《夢路を往く》
最近ジェイドがうわついている。その原因はレーラから聞き及んでいる。星降る森の喫茶店だ。お土産でもらった焼き菓子は確かにうまかった。だが、お菓子が食べたいからと依頼を選り好みされては困る。
ということで、お店に来てみた。
「いらっしゃいませ、旦那様。当店は初めてでございますか?」
エルフの青年が優雅に腰を折る。王公貴族でもないのに腰を低くされるのは落ち着かない。
「そうだ。ジェイドが前に菓子を買ってきたからな」
名前を出せば用向きもわかるかと口にすれば、青年は顔を輝かせた。
「ありがとうございます。是非他のお菓子もご賞味ください」
笑うと少し雰囲気が柔らかくなる。
「あんた女か。ああ……なるほど、なるほど」
「如何されましたか」
一人納得していると、不思議そうに首をかしげるエルフの女。
ジェイドはなかなか面倒な性格をしているな、と思う。菓子も彼女も手に入れたいならば店の常連になるのも仕方ないのだろう。
「以前もらった焼き菓子をもらえるか」
「はい。ありがとうございます」
心なしか軽やかな足取りに本当にお店が好きなんだなと理解する。
「何これ?」
頼んだ焼き菓子と一緒に豆菓子が出てきた。薄黄色の豆というとぴよ豆しか思い浮かばないのだが。
「試作品の豆菓子です。茹でたコッコツガイマメに蜜を絡めて固めました。皆様にお配りしているのです」
「ぴよ豆か」
コッコツガイマメとはぴよ豆の正式名称だ。コッコが好んで突く草なのだ。突かれなければちゃんと栄養を蓄えることが出来る。よい豆を仕入れたようだ。密で固めてあるということもあって、歯ごたえは十分ある。歯が弱い人には食べづらそうだが、固い菓子の方が好みな自分には食い応えがあってよい。
他の客を見てみると、女性や甘いものが好きそうな者には豆菓子以外も渡している。クリームが見える。その上に星が乗っている。あれは甘そうだ。
「なあ、次にジェイドが来たら、クラメンの全員分買ってこいって伝えてくれるか」
店主は微笑み一つで了承してくれた。仕方ないから店に行くのは許容してやろう。土産一つで皆に許してもらえるなら、安いものだろう。
な、ジェイド?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます