007 不揃いクッキー

「クッキーくださーい!」

 最近冒険者になった私は、ユーゴールードの森で採取依頼をしていることが多い。まだ新人だし、魔物化した動物と戦えるほど力はない。だけど薬の材料や地面にある素材の採取だけならなんとかなる。今まではユーゴールードの森での任務は人気がなかったが、ここのところカフェが出来てからはそうでもない。

「はい。依頼がんばってね」

 フリフリの格好の店員さんに笑顔で見送られながら、私は店を後にする。少し前に出来たこのカフェでは最初店の中でしか食べることが出来なかった。けれど途中で私たちのような新人冒険者のためだけのクッキーを売ってくれるようになった。お店で食べているものより形が崩れてしまったり、焦げがあったり、本当はお客に出す物ではないらしい。オーナーさんが新人は大変だから、とほぼ無料に近い値段にしてくれた。おかげでクッキー目当てで依頼をしに来る者もいる。とはいえ常にあるわけではないし、それなりの装備をしている者には正規の物を正規の値段で買ってもらうと言っていた。

 私も早くきちんとした値段で買えるようになりたい。

「セーラ、買えた?」

「うん!」

 新人とはいえ、私は一人ではない。姉のソラノと一緒だ。

「あっちにマシューキノコがあったよ。それと近くに祈願花の群生地も見つけたから採っていこう」

 姉に連れられてマシューキノコを探す。マシューキノコは色んな料理に使われる。添え物としてもいいし、サラダにしたり、これ自体を焼いてもいい。味はないが、栄養はあるので、どうしても何もないときは私たちもお世話になっていた。

 祈願花は薬の材料になる。生で食べても苦いし、体に変化もない。でもちゃんとした処理をすると、傷を治す回復水になるという。私も一つ持っている。冒険者ギルドに登録すると一つだけ無料でもらうことが出来る。安い物ではないので、予備を買えるくらいになるのが目下の目標だ。

「あ、ユーゴールーだ」

「こらこらキノコ食べないで。これはダメだよ」

 採取したマシューキノコの匂いを嗅ぎ始めたので慌てて避ける。袋の中に入れて、食べられないようにした。少し遠くにあるキノコを示すとそちらに跳ねていく。

「祈願花を採ったらちょっと休憩してハクライまで戻ろうか」

「うん」

 依頼分をきちんと袋に保存して、倒木の上に腰掛ける。姉にクッキーの半分を渡し、一緒に食べる。水は来る途中で川で汲んできたものがある。

 手に取ったクッキーは少し焦げていた。口に入れると味は特に問題なく、寧ろ美味しい。今までユーゴールードの森の採取依頼はただ時間のかかるものでしかなかったという。だけどカフェが出来たことでもし何か不測の事態があったとしても頼れる場所があり、またそこには凄腕の冒険者がいる。

 冒険者になった時期がよかったね、とギルドのお姉さんには言われた。私もそう思う。

 でも焦げていないクッキーを早く、ちゃんとした値段で買いたい。きっと今食べているものよりもっともっともーっと美味しいんだろうな。

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