005 星のシュガージュース

 星降る森に来たら金平糖が取れるのはよく知られた話だ。でもこれは本当は花の種なのだ。

「イレーヌちゃん、シュガージュースとハーブクッキーね」

「はーい」

 何度か来てくれた冒険者のお客さんがわたしに注文を投げる。この森に来たときはつらい気持ちばっかりで下を向いていたけれど、でも今は楽しい。

 ダグと駆け落ち同然で家を飛び出し、でも仕事にはなかなかつけなくて、日銭を稼ぐばっかりで大変だった。それでもわたしと本当に手をつないで何とかしようとしてくれたダグには感謝している。すっごい素敵。

 森に来たときに、金平糖の真実が何かを知った。皆意外と何か知らないんだってミルズさんは言っていたけれど、それも仕方ないかもしれない。何せ見た目は本当に星の形をしている。でこぼこした星型の種は淡い色だ。花の色が種の色になるらしく、薄いピンクやブルー、イエローなど見た目にもかわいらしい。

 本当の名前はアイランという花の種だ。星降る森のそこら中に咲いている花で、実は花も食べられるらしい。アイランの種を鍋で潰しながら煮ていくと、次第に甘い匂いがしてくる。なんとこの種は甘いのだ。外側の皮は固いのだけど、子どもでも噛める程度である。田舎の方だとこれを噛むのがおやつ代わりだ。

 煮詰めて甘い汁が出たら、グラスに移す。種がどんな色でも最終的に薄いピンク色になる。グラスの向こうでクッキーの補充をしているダグの姿が見えた。移したグラスの上から水と氷を追加する。大体五倍くらいに薄める。浮かんだ氷の間にアイランの花を添えれば、星のシュガージュースの完成である。

 ちなみに煮詰めた汁は濃すぎてとてもじゃないが、甘すぎる。女の私でも甘さにぐえっとなったので、よほどの甘党でなければきついと思う。でもミルズさんはこれを二倍くらいで飲む。特に疲れたときはいいんだって言っていた。すごいなあ。

 シュガージュースと一緒にハーブクッキーを持っていく。

「お待たせいたしました。星のシュガージュースとハーブクッキーです。ごゆっくりどうぞ」

「お、あんがと。甘いの苦手だけど、なんかこの組み合わせは癖になるんだよな」

 わたしにニカッと笑ってくれる。こうやってお客さんと対応することにもだいぶ慣れた。最初は声を掛けるだけでも大変だった。緊張して声は裏返るし、注文は間違えるし、これも温かく見守ってくれたミルズさんのおかげだ。

「ありがとうございます」

 笑ってお客さんに答えて、厨房のダグのところへ赴く。

「ダグ。はい、お疲れ様。もう少しで人も落ち着くと思うから頑張ろうね」

 小さな声で、ダグにグラスを渡す。先ほどのお客さん用に作った残りを少し拝借した。小さめのグラスに五倍よりは少し濃い四倍で。

「ありがとう」

 額に汗をしながらも、心底うれしそうに笑ってくれる。

 そんな彼といられて、幸せだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る