003 ぴよ豆のオムライス

 客のいなくなった店内は火が消えたように静かだ。

 喫茶ベリーベリーの営業時間は太陽が中天にかかってから日の暮れるまでずっとだ。だから日が長い時期は勤務時間が長くなる。

「お疲れさま、ダグもイレーヌも休憩して。今日も一日ありがとう」

 机の上に伸びると、コトリと皿が置かれた。黄色い卵の色が艶々したオムライスは出来たての香りがする。

「今日は私の番だったからね。オムライスだよ」

「ありがとうございます、店長」

 イレーヌが疲れているだろうにきちんと頭を下げる。だけど俺はもう顔を上げるのもつらい。ずっと厨房でカフェやクッキーや、ケーキを作って、それを食べられるわけでもなくというのが余計につらい。仕事だとわかっている。だがこの《スイーツジャンキー》に入っておきながら人のために甘味を作ってばかりというのもきついのだ。甘いものが食べたい。

「ほら、ダグ」

 麗しいエルフ店長は苦笑しながらスカイベリーのムースをオムライスの横に置いてくれた。

「おおお! さすがミルズ! さすがクラマス! いっただっきまーす!」

 オムライスの前にムースを口に。それだけで疲れがスッと飛んでいく。スカイベリーの様々な風味が口の中で色々変わって楽しい。

 ムースを食べきるとお腹も心も落ち着いた。今度は、とスプーンでオムライスを大きくすくう。黄色の卵の下からはやさしい味のぴよ豆とご飯が姿を現す。肉でも食べて精をつけたい気持ちはあるけれど、きっとこういう時は逆にゆっくり落ち着ける方がよいのだろう。

 喫茶ベリーベリーが開店した当時は全然暇だった。まだあんまり人にも知られていなくて、クランメンバーや森にやってきた冒険者たちが物珍しさで入店するくらいだった。最近は知名度が上がってきたのかそこそこに人がくる。客が来るのはいい。だが今日は団体客が三組もいて、すごい疲れた。

 拾ってくれたミルズには仕事と住む家を用意してもらって助かっている。イレーヌと一緒に働かせてもらえたし、イレーヌの制服姿は可愛いし、部屋も一緒で籍は入れてないが新婚のようでうれしい。ミルズさまさまだ。

「今日は客が多くて疲れただろう。片付けはしておくから、もう休んでいいよ」

「気持ちはありがたいが、ミルズも疲れてるだろう?」

「ホールはイレーヌが半分持ってくれてるからね。ダグは厨房に缶詰めだったし、時には店長らしく労ってあげるよ」

 気前よく言ってのけるが、絶対疲れている。ずっと立ちっぱなしで、イレーヌもホールにはいるがそれ故に変な客の応対はミルズが請け負ってくれている。一見してみれば男で、しかも顔がすこぶるよいとなれば、仰け反る者も多い。それでも今日は本当に疲れていて、ミルズの気持ちに感謝する。

「ぴよ豆、うまかったよ」

 後を任せて俺はイレーヌと店の裏の家に帰宅する。閉めた扉の向こうから、微かに口笛が聞こえてきたのはきっと気のせいじゃないだろう。

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