002 ハーブクッキー

 癒しを求めて星降る森にやってきたら、いつの間にやら店が出来ていた。こんな僻地に店を作るのもすごいが、客がいるのもすごい。冷やかし半分入店した。

「いらっしゃいませ、旦那様」

 優雅に腰をおるエルフに目を瞬かせる。物好きはエルフのやつだったか。席に案内されると、テーブルの上にはユーゴールーを模した置物があった。垂れた耳につぶらな瞳、少し首をかしげた仕草がかわいらしい。リアルではないのに、うまく特徴を捉えている。

 だがメニューには甘味が並ぶ。そう得意ではないわたしは少しげんなりする。

「旦那様と同年代の方にはハーブクッキーがよく好まれています。よろしければ味見してみますか?」

 渋面に気づかれたか、エルフが小さな食器に土産用と思われる焼き菓子を乗せてきた。ここまでされて食べないわけにはいかず、口に含む。

 ハーブクッキーと言っていたそれは甘さはなく、逆に少しの苦味を感じた。だが、不快なわけではなく、その苦さが噛んでいると味わい深くなってくる。

「こちらもどうぞ」

 ちょうどよいタイミングでお茶を出された。香りから紅茶のようだ。クッキーの後に飲むと、何かベリー系のフルーツが入っているようで少し甘い。しかしこの甘さがクッキーとほどよく合った。

「これは素朴だが、よいな」

 疲れていた体と心が癒されるのを感じる。

「お褒めに預り光栄です。旦那様、おかわりはいかがですか」

 にっこりと誇らしげに笑うエルフ、いや店員に、わたしもふにゃりと眉が下がる。

「戴こう」


 閉店までの時間、ゆっくり過ごさせてもらい、わたしは家路についた。

 次に家出する時の楽しみが増えた。

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