001 スカイベリーのタルト

「スカイベリーのタルトでごさいます」

 エルフの青年が俺の前にタルトを置く。向かいに座ったレーラにはスカイジャムのパンケーキが置かれている。

「お楽しみください」

 静かに去っていく青年の背から視線を外し、目の前に集中する。スカイベリーはその名の通り、空色の木の実だ。ただ空色と言うのは朝焼けや夕焼けの色も含まれ、色が多いほど一緒に食べると美味しいと言われている。それをふんだんに使ったタルトなのだ。

 甘酸っぱさが一番にやってくる。咀嚼していると酸味が薄れ、段々と甘さに深みが増してくる。さっぱりした甘さが俺には心地よい。

「うまいな」

「でしょでしょ!」

 この店を教えてくれたレーラは同じクランの甘味同士だ。彼女は彼女でパンケーキに舌鼓を打っている。

「また時間あったら来ようよ! 団長には内緒でさ」

「ちょうど良い依頼があればいいんだがな」

「それねえ」

 俺と彼女は星降る森の近くにあった調査依頼のついで、という名目で店にやってきている。普段はこの森にまで来る用事はない。

「ばれたらばれたで、まあ怒られるか」

「あはは、そうね」

「それか賄賂として持っていくか。あいつ焼き菓子好きだったろ」

 我らがクランの団長は甘いものがそんなに好きではない。ただし焼き菓子は除く、という奴だ。新しい焼き菓子を見つけると買わずにおれないという不思議な性格の主だ。

「あ、いいかも。手土産って買えるのかな。あー、店員さーん」

 レーラが手を挙げるとすぐさま先ほどの青年がやってくる。焼き菓子を持ち帰り出来るか確認してくれる。同輩であるらしい青年にひたと目を据える。

 よくよく見れば、彼ではない。ほっそりとした首と細い体つきに彼女だったと気づく。そして気づくと同時にじっと見てしまったことに気まずい気分になる。

「ジェイド、焼き菓子あるって。団長はどれが好きかなあ」

 いくつかの種類があるらしく、わかりやすく説明してくれる彼女の格好はどう見ても男のものだ。

「……ナッツ系が好きだったはずだ。とりあえず一つ渡してみたらどうだ」

「どうだね。じゃあ、……これとこっちを包んでくださいな」

 ナッツとスタンダードな焼き菓子を選び、包装をお願いする。これで絆されてくれると楽なのだが。すべては焼き菓子の出来にかかっている。

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