私の誕生日は四年に一度?

卯野ましろ

わたしの誕生日は四年に一度?

 本日、二月二十九日は……私の誕生日なのです! 学校で友だちみんなに「おめでとう」と言われて幸せ♪ たくさん誕生日プレゼントも貰えて、とってもステキな日!

 今夜は家族でバースデーパーティーをするから、すごく楽しみ! お家まで、あともう少し……。


「やい閏子じゅんこ!」

「ん?」


 名前を呼ばれたので後ろを振り返った。そこにいたのは……。


のぼるくん!」

「あのさ……今日って、お前の誕生日だよな?」


 お隣さんの昇くんとは同じ登校班なので、いつも一緒に学校へ行っている。今朝は登校中に誕生日の話は出てこなかったけど、思い出したのかな?


「うん、そうだよ!」

「……そっか……」


 もしかして「誕生日おめでとう」って、言ってくれるのかな? 私はワクワクしながら、昇くんの次の言葉を待っている。


「だから、お前って何かトロいんだ」

「えっ……?」


 トロい……?

 予想していなかった言葉に、私は固まってしまった。


「二月二十九日って、四年に一度しかない日なんだろ?」

「う、うん……そうだけど……」

「それなら本当は、四年に一度しか年を取っていないってことになるじゃねーか!」

「……あっ!」


 そういえば確かにそうだよね?

 これまで毎年二月二十八日にバースデーパーティーをしていたし、普通に進級しているけど……。

 本当は何か違うのかな?


「お前は四年に一度しか年を取らないから、みんなより遅れているんだ」

「そ、そうなんだ……」

「だから、お前めっちゃ走るのが遅いんだ。常にボーッとしていて危なっかしいし。オレより年上のくせして、すぐ泣くし」

「……」


 何も言い返せない。

 なぜなら私が昇くんに言われているのは本当のことだから。

 でも今日は、そんなこと聞きたくなかったな……。せっかくの誕生日だもん。


「お前、実はオレより年下だったんだな!」


 私は悲しくなって走り出した。


「お、おいっ! 閏子!」


 もう既に泣き始めていたから、私は呼ばれても振り返らなかった。昇くんに、泣き顔を見られたくない。

 恥ずかしい。

 私って全然、成長していなかったんだ。




「あらあら閏子! どうしたの?」


 お家に帰ると、ママが心配そうに迎えてくれた。私の涙は止まらない。


「ママ……私、本当は成長していなかったんだね……」

「えっ?」

「だって私、四年に一度しか年を取らないから……」


 ピンポーン♪


「っ!」


 話していると、お客さんがやって来た。


「あらあら、誰かしら」


 ママがドアを開けると、


「こんにちは~」

「……コンチハ……」

「コラ、昇! きちんと挨拶しなさい!」

「……こんにちは」


 昇くんと、昇くんのママがいた。


「まあ、こんにちは!」

「さっき、このバカが閏子ちゃんを傷つけて泣かしちゃったみたいで……謝りに来ました。ごめんなさい、閏子ちゃん」


 昇くんのママが、すごく申し訳なさそうに頭を下げた。私は驚いて何も言えなかった。昇くん本人は、黙って立っている。


「な、何があったんですか?」

「はい。ついさっき、うちの昇が……」


 何も知らないママが聞くと、昇くんのママが説明してくれた。




「閏子、ごめんね。はい……おめでとう」

「ありがとう昇くん」


 ママたちの話が終わると、私は昇くんからプレゼントを受け取った。本当は今朝、渡すつもりだったらしい。だから帰り道に、と心に決めたけれど、あんな風になってしまって……。


「このバカ息子は、素直じゃないんだから! 今朝きちんと渡せば良かったんだよ!」

「ま、まあまあ……昇くん、ありがとうね」


 自分のママに怒られて恥ずかしそうにしている昇くんに対して、私のママもお礼を言った。




「わあっ!」


 昇くん親子が帰った後、貰ったプレゼントを開けた。昇くんからのプレゼントは、かわいい猫のシールだった。私が大好きな動物は猫。

 ありがとう昇くん。




「あのときは本当にごめんね。オレ、閏子より年下なのが嫌で……つい意地悪しちゃったんだ」

「アハハ、もう良いって! それ何年前の話よ」


 大人になっても、あのエピソードが忘れられることはなかった。特に昇くんは、よく思い出している。その度に謝っている。


「大体、年下でも昇くんは超かっこいいんだから!」

「ありがとう」

「さて、どこに連れていってくれるの?」


 今日は二月二十九日。私の本当の誕生日。


「まだ秘密。とりあえず良いところだから、行こう!」

「うん!」


 私は猫モチーフの腕時計を着けていない方の手を、彼が差し出した手に向けて伸ばした。




「本当に四年に一度しか年を取らないなら、それが良いな。見た目も老けなければ、もっと嬉しい」

「うーん……」

「何、文句ある?」

「いや! そうじゃなくて……」


 大人になってからは、私が年齢を気にしている。あと私の方が強くなったかも。それから……。


「いくつになっても、閏子は絶対にずっときれいだよ」

「……ありがと」


 昇くんが、すごく素直になりました。

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