第5話 アリエット王国
――アリエット王国。
それは物質的にも文化的にも
今日この日、青一色の、雲一つない空が王国を祝福するように広がっていた。
空に向かってポスン、ポスンと続けざまに魔力を
この国の王都・シンバリーでは、勇者とその一行が魔王討伐を果たしてちょうど5年にあたる記念祭が行われていた。
市街の道々で、子供も大人もみんながそれぞれに一面の笑みを浮かべて歩いている。そんな街の通りを一段と輝かしい笑顔で走っている少女がいた。
「はやくっ! はやくっ!」
キルンは息を切らしながらも足を止める様子はない。その少女は毎年のこの日を自分の誕生日の次くらいには心待ちにしていた。大通りには多くの屋台が出て、普段は過保護な両親もこの日だけは門限を緩めてくれたりして、友だちといつもより多くの時間を遊ぶことができるからだ。
母親からもらったお小遣いを落とさないようにポケットを押さえながら、友だちと待ち合わせている広場へ向かってふたつ結びにした髪を上下に跳ねさせながら走る。集合時間まではまだ少しあったが、胸の奥がフワフワと浮き上がるような
広場に着く。肩で息をしながら辺りを見渡すも、しかしまだ誰も来てはいない。
早く屋台へと遊びに行きたかったキルンだが、でもまあいいやと果てしなく広がるような大空を仰いだ。
空を見上げるのは好きだった。この空の下に王都以外の色んな街や別の国があるのだと想像するだけでとても楽しい気分になれるからだ。
夢に見ているのだ。自分はまだ小さくて1人じゃどこにも行けないけれど、それでもいつか大きくなったら旅に出るんだ。お父さんは反対するだろうけど、でもいつかきっと――。
「――うん? なにあれ……?」
青一色だった空の中におかしな色を見つけて、首を傾げる。
突然、黒の点々が王都の空のいたる所に現れたのだ。
鳥? いや、違うみたいだ。それは一切横に動く様子はない。最初の内はクリームシチューに浮いた焦げのようにまばらだったそれらはどんどんとその姿を大きくしていく。
それが何かが空から現在進行形で落ちてきているからだとキルンは気づき、顔を
「ど、どうしよう……っ‼」
広場の外から事態に気づいた人たちの上げる悲鳴が聞こえてきた。
キルンは一歩も動けない。でも、今のところその落下物が広場に向かって落ちてくる様子はなかった。
とにかくあれが地面に落ちてから、お父さんとお母さんのところに戻ろう! キルンはそう考えて、次第にその姿を確かに現わしてきた円柱型の何かを見上げ、どうかあれがわたしの家に落ちませんようにと天に祈る。
もうキルンの頭に祭りのことなんて少しもなかった。今はただ、父と母の無事を祈る言葉で頭がいっぱいだった。
しかし無情にも、その円柱型の何かは落下中いっせいに長細い種子のようなものを内側からばら
その光景はまるで作物を狙って集団で移動するイナゴやバッタの群れを見ているかのようだった。逃げ場の
直後、すべてが壊れる音がした。
◇ ◇ ◇
王都の正門前にはあらゆる悲鳴が何重奏にも響いて、まさしく
それも仕方がないだろう、聞いたこともない音量の爆発音が爆竹のように連続して鳴り響いたかと思ったら、元は建物の一部だったのだろう石のつぶてが王都を囲む高い正門の壁を越えて飛んできて、鈍い音と共に地面に突き刺さったり人を押し潰したりしているのだから。
王都に入るために正門に設置されている関所へと並んでいた人々は逃げていく。旅の人間は荷物を投げ捨てて、行商人は荷馬車を置き捨てて王都から離れるように平原を一目散に走っていた。
しかしそんな状況においてもその光景を楽しそうに眺める者が1人、逃げ惑う人々の
それは男だった。ニタニタと粘着質な笑みを顔いっぱいに広げている。
「1人も逃がさないよぉ~www? ――『
直後、上空から凄まじい速度で空気を叩くプロペラの音が聞こえ始める。ヘリコプターだ。それも側面に機関銃とロケット弾の付いた戦闘ヘリだった。
そしていつの間にか男の手の上にはモニター付きのコントローラーが載っている。モニターに映し出されるのは王都前の平原の空からの
「さぁさぁ~やっちゃおうかぁ~www‼」
男がコントローラーのスティックを動かすとその通りに上空の戦闘ヘリが動き出す。モニター上に映し出される赤いターゲットマークへと王都から走って逃げてくる人々を入れて、
「ふぁいあっ‼」
強くボタンを押し込んだ。
連続する低く唸るような音と共にヘリコプターの機関銃から雨のように銃弾が発射される。地上の人々は
「ははっ‼ ハハハッwww‼」
真っ赤に染まっていくモニターを目にして、男は狂喜する。それからも無我夢中でコントローラーを操作して機関銃で掃射して、左右に広く逃げようとする人々にはロケット弾を撃ち込んで地面ごと吹き飛ばした。
5分もしないうちに王都の外で並んでいた人々はその全てが死に絶える。動くのは銃火器によって巻き上げられた土埃だけだった。
戦闘ヘリは逃げる者の1人もいなくなった平原の空を王都に向かって突き進んだ。
「そらっ! どかぁんっwww!」
男がコントローラーにあったボタンの1つを押すと、戦闘ヘリからロケット弾が飛び出して王都の門に突き刺さった。爆発音が轟き、せいぜい荷馬車が2、3台行き交うのが限界だった正門に大きな穴を空ける。そしてその仕事を最後にして、戦闘ヘリはどこへともなくその姿をフッと消した。
「あれ、なんだよもう時間切れか……まぁいいや」
男は機関銃によって耕された平原の上、撃ち抜かれて血まみれになった人々の死体の横を鼻歌混じりに歩いた。
「さぁてwww 新しい王様の、ご到着だよぉ? なぁ~んてねぇwww‼」
正門に空いた大穴から覗ける王都は、もはや
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