カラスとカモメの『四年に一度の風船パーティー』

アほリ

カラスとカモメの「四年に一度の風船パーティー」

 「いよいよだね。」


 「うん。いよいよよ。」


 カラスのタイドとカモメのルーシーは、今まさに開会式が華やかに行われている、東京オリンピックの会場の国立競技場の上空を見上げてきた。


 「俺らはずっとまっていたね。」


 「この瞬間をね。」


 「去年は何処でやってたっけ?」


 「リオデジャネイロよ。」


 「その前は?」


 「ロンドンよ。」


 「その前は?」


 「えっ・・・と・・・俺ら産まれてないよ。卵の中じゃ。」


 「ぷーーっ!!」「くくくくく!!」


 「かっはっはは!!」「ぎゃっはっははは!!」



 じーっ。


 じーっ。じーっ。じーっ。じーっ。



 「あ・・・」「他のスズメさんやムクドリさんに睨まれちゃったわ。」


 「みーんな、この一生この1度見られるか見られないか解らない『この時』を体感したい訳だね。」


 「でも、私らは何度もこの四年に一度の『楽しみ』が待っている!!」


 「うん!がんばるぞー!!」



 じーっ。じーっ。じーっ。じーっ。



 「しってるよー。」「世界的に有名さんだよねー。君達。」


 「オリンピック風船割りコンビの『オリンピア・バルーンパーティ』、うぇるかーむ~!!」


 「げっ!!やっぱりあのスズメとムクドリ!!私らの事解っちゃった!!」「ここでも知られちゃってたの?!」



 そうなのだ。

 このカラスのタイドとカモメのルーシーは、

 四年に一度のオリンピックの開会式のスタジアム会場の外に現れては、飛ばされる夥しい数のカラフルな風船を嘴や脚の爪で全部割りまくる事で有名な2羽だったのだ。


 しかも、2羽の親鳥もその親鳥のその親鳥も・・・ずーーーっと、オリンピックの開会式の会場の外に現れては、飛ばされた風船を華麗な飛行テクニックでパンパンパンパンパン!!と割りまくって、周囲の鳥達を湧かせていたのだ。

 風船割りを通して各々開催の国の鳥達と盛り上がり、このカラスとカモメはこう呼ばれた。


 『オリンピア・バルーンパーティ』

 と。


 「俺のじいさんのじいさんのじいさんのじいさんのじいさんが、この東京でのオリンピックで飛ばされた風船を自慢の嘴で全部割ったって自慢してたね。」


 「私のばあちゃんのばあちゃんのばあちゃんのばあちゃんのばあちゃんだって、東京のオリンピックで割った風船のゴムの翼で触れた感触が忘れられなかったって。」




 「よーーし!!」


 「今回も割っちゃうよーー!!」


 「いよっ!!『オリンピア・バルーンパーティ』!」


  

 やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!やんや!



 いつの間に、他の鳥達も集まってきて何時この新しく作り替えられた、国立競技場から放たれる無数の風船に期待を膨らませて待ち構えていた。


 「期待されちゃったよ。俺らは。」

 「いいじゃないの?!魅せちゃおうよ!!私らの華麗なる空中風船割りテクニック!!

 私らの研ぎ澄まされた嘴で!!」


 澄んだ青空の中に輝く開会式日和の太陽が、カラスのタイドとカモメのルーシーの鋭い嘴の表面をまるで膨らましたてのゴム風船のような光沢の艶を輝かせた。


 やがて、


 オリンピックの開会式もたけなわ。


 やがて、聖火ランナーが会場にやって来た。


 上空に、5機のブルーインパルス機がオリンピックの五輪のマークを描いて飛んでいった。


 「飛ばないね・・・」


 「飛ばないね・・・」


 2羽は、一向に会場から舞い上がって来ないいっぱいのカラフルな風船達をカラスのタイドとカモメのルーシーは痺れを切らしていた。


 「風船・・・どうしちゃったんだろ。」


 「忘れちゃったのかなぁ?風船。」



 ばさばさばさばさばさばさばさばさばさ・・・


 

 「悲報!!悲報!!」


 そこに、一羽の白いハトがやって来た。


 「なんだい?悲報って。」


 「おふたりさん!聞いて!!今回のオリンピックの開会式に、ゴム風船を飛ばす演出無いって!!」



 「えっ・・・」「なんだって・・・!!」



 がーーーーーーん!!


 カラスのタイドとカモメのルーシーは絶句した。


 「ただし・・・」



 ふうわり・・・



 「んん??」



 ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・ふうわり・・・



 「何この白い・・・鳥の風船?」


 「何だか奇妙な風船ね。」


 カラスとカモメは飛び立ち、その白い鳥風船を追いかけた。


 「『ハト風船』っていうんだ。今さっき『ゴム』風船を飛ばさないって言ったよね。 

 これは、『紙』風船だから。

 飛ばしても、光や水に熔けるから環境に良い風船だって。

 謂わば、おいらハトを模して華やかな演出って言いかな。えへん。」


 「ふーん。」 「でも、『嘴でパン!』が出来ないわね。」


 「出来るさぁ!!ほら!!白ハトのルックいきまーす!!せーの!!」


 白いハトはそう言うと、目の前に飛んでいたハト風船を捕まえ、真ん中を嘴にくわえて息を深く吸い込むと、



 ぷ~~~~~~~~!!



 ぱぁん!!



 「ほおら!!形はハトでも風船は風船!!

 吹き口に息をいっぱい吹き込めば、パンクするの!!

 おいらは、肺活量は他のハトには負けないぞっ!えっへん!!」


 膨らまし過ぎて破れたハト風船は、ひらりひらりとオリンピック開幕に湧く街中へ吸い込まれていった。


 「わーい!!」「面白そう!!」


 カラスのタイドとカモメのルーシーは、飛んでいく他のハト風船に戯れじゃれついて遊んだり、もっと吹き口に息を吹き込んでパンパンにしたり、ぱーーーん!!と割ったりして楽しんだ。


 「わーい!!」


 「五輪風船割りカラスのタイドだ!!」


 「五輪風船割りカモメのルーシーさんだ!!」


 「あそぼ!!あそぼ!!」


 「一緒に風船であそぼ!!」


 かーかー!


 ぴーぴー!


 ぎゃあ!ぎゃあ!


 ちゅん!ちゅん!


 ちゅるり!ちゅるり!


 つつぴー!つつぴー!


 くるっくー!くるっくー!


 ででーっ!ぽっぽー!


 かーかー!ぴーぴー!ぎゃあ!ぎゃあ!ちゅん!ちゅん!ちゅるり!ちゅるり!つつぴー!つつぴー!くるっくー!くるっくー!ででーっ!ぽっぽー!



 カラスのタイドとカモメのルーシーがハト風船に戯れているとこに次々と鳥達が集い、一緒に思う存分楽しんだ。

 中には、ゴム風船を持参して飛んできた鳥も居て、オリンピックに湧く街の上空は賑やかな鳥達のパーティが開かれていた。


 地上も空も、皆ひとつになって仲良く。




 ・・・・・・



 「・・・てなる筈だったんだよな。」


 そのオリンピックが開催される筈だったスタジアムの屋根に、カラスのタイドはオリンピックの中止になった原因の新型ウイルスの舞う空を見上げていた。


 「仕方ないね。そういう事もあるよ・・・」


 カラスのタイドの側で、カモメのルーシーが寂しそうに話しかけた。


 「四年に一度どころか、何百年に一度の試練・・・かぁ・・・」


 「出直しましょ。この忌まわしいウイルスが消滅して、このオリンピックが難なく開催する日にまた。」







 ~fin~

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カラスとカモメの『四年に一度の風船パーティー』 アほリ @ahori1970

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