#16:第6日 (13) [Game] 刑務所の調査
「OK、次だ。フィル、北の山と森は?」
「両方とも古くからの聖地で、近付くなと」
とにかく森に行くと迷うので、“神が人を近付けないようにしている”という迷信ができた。木が鬱蒼と茂っていて、単調な地形で、どこを通ってきたか判らなくなるそうだ。おまけに鉄分の多い地質で、磁石も狂うと。
ただ、古代人は山の中に神殿を作ったとされていて、昔のスペインの探検隊――もちろんエル・ドラドを探しに来たのだ――は、ちゃんとそれを探し出した。しかし、たいした遺跡ではなかったそうで、長く捨て置かれ、行き方が不明になってしまった。
「ただし、聖地を管理している一族がいて、森の中の道もちゃんと知ってるらしいです。それが、西の湖の中の島に住んでいると」
なるほど、ここでつながる訳か。
「どうして管理しなきゃならないんだ?」
「モルフォ蝶がたくさん棲んでいて、それが神の使いだとされたらしくて。繁殖の場所とかを、守らなきゃならないんでしょうよ」
「刑務所の所長が、囚人を使って蝶狩りをやったらしいぜ」
「ええ、それは俺も聞きました。ただ、森の深くには行き着けなかった、ということになってて」
「そこへ行くには管理者に聞かなければならないと」
「おそらく」
いかにもゲームらしい設定だな。しかし、それが東の岩場とどう絡んでいるのか、よく解らない。
「岩場から切り出した石で、神殿を作ったんじゃないの?」
ウィルが何気ない感じで呟く。なるほど、言われてみれば簡単だった。
「そういうことなら伝説の一つくらい、町の誰かがしゃべってもよさそうなものだが」
「きっと口にしちゃいけない理由が、何かあるんだよ。だから特定の一族だけ、他と離れ住んでるんじゃないの」
なるほど、だから子供の噂にしかならないんだ。いかにもゲームらしい設定。
「あら、もう次のことを考え始めてるのね」
オリヴィアが買い物を終えて戻って来た。今回はキャッシュ・カードの中の金が潤沢にあるのだが、アイテム数に上限があるので、ライトやナイフ、ロープなどの“探検必須道具”を買った他は、リストを作るだけにしたらしい。
「みんなで分散して持てばいいじゃないか」
「違うのよ。全員の合計値が制限されてるの」
じゃあ、俺が買ったカシャッサや肉も含まれるのか。無駄な物を買ったかもしれないな。
「とりあえずまだ捨てないでいいよ、ハンニバル。使ったら減るんだし、それから買い足してもいい」
「なるほど。じゃあ、次の調べ物だ。刑務所と川中島。刑務所ではモルフォ蝶と北の森のこと、川中島では西の湖のことを調べる」
分担は、俺とフィルが刑務所、ウィルとオリヴィアが川中島とする。フィルは探し物が得意だし、ウィルとオリヴィアは聞き込みがうまいので。
リアル・タイムで30分後に再集合することにして、二手に分かれる。町を東へ突っ切ると、赤く濁った水の
南から北へ流れているから、ウィルたちが行った川中島の方が上流で、こちらが下流ということになるが、こんな汚い水の近くでキャンプができるものかね。
それはさておき、対岸へ渡る方法。確かに、橋の残骸がある。両端の鋼材と、それを補強するために斜めに張った鉄筋。“桁”と“筋交い”というんじゃなかったかな。鋼材は細いH形鋼で、男の靴の幅くらい。これじゃあ、渡ろうとする奴が少ないのも頷ける。橋の幅自体が狭くて、2ヤードあるかないか。
ここに橋を架けようとした理由も判る。川の中から、橋脚を立てるのにちょうどよさそうな岩が突き出しているのだ。こちらと向こうに一つずつ。
対岸は岩場で、低いながら崖になっており、その上に刑務所の壁が建つ。こちらに見えている壁の長さからして、刑務所の広さは、ちょうどフットボールのスタジアムくらい。周りは灌木がまばらに建つ草原だ。
水と電気はどうやって確保していたのだろう。橋は一部が跳ね橋になっていたのだから、水道管や電線は通せないはず。あるいは、向こう岸に水源があり、電気は自家発電か。まあ、ゲームの世界なので、そんなのは気にする必要もないことなのだが。
さて、さっそく渡る。もちろん、鋼材の上を。
「フィル、綱渡りは得意かい」
「現実に得意でも不得意でも、ゲームの中じゃ関係ないですよ。桁に乗って、
「なるほど、そうだった」
“
さて、刑務所の中というのはどうなっているのか。俺は入ったことがないのでよく知らないが、囚人が入る居房があって、看守の見張り場所があって、他には事務所、官舎、倉庫、囚人を働かせる工場か農場、レクリエイションのための運動場、全体を見張るための塔。こんなところだろう。
そして事務所の一角に所長室があるはず。そこにモルフォ蝶のことを書いた資料があるだろう。あるいは、蝶の研究室があったかもしれない。それを手分けして探す。
居房に使われた建物を探すのは簡単だ。見通しやすいように、一直線に伸びた廊下があるはず。その近くに事務所と所長室があって、少し離れたところに官舎があるだろう。
建物は全部で五つしかないので、あっという間に事務所棟を見つけ出した。ドアは壊れかけていたが閉まっていたので、窓から侵入する。ガラスを割らずとも、既に割れていた。割れたガラスを踏んだ跡もあるので、先客が何人もいるらしい。
中の廊下へ。10年でこんなにも荒れるのかと呆れるくらい荒れ放題。棟内にいくつかある部屋のうち、広くて立派なのが一つあったので、それが所長室だと思われる。
フィルには蝶の研究室を探してもらうことにし、ここは俺一人で調べる。まず部屋の中の様子。窓際に執務デスク。壁際に資料か本を置く棚。それだけ。もちろん、机の上には紙一枚、棚には本一冊、残っていない。あるのは積年の埃と、いくつかの足跡。足跡はもちろん、先客のものだろう。
何かあるとしたら、デスクの抽斗か。そちらへ行く。
椅子の両脇に、抽斗があった。右が三段で左が二段。どちらも開かない。錠が付いてるからだ。こんなちゃちな錠はピックで一瞬なのだが、あいにくゲームの世界では使えない。オリヴィアに買ってきてもらったナイフも使えず。
となるとやはりフォークか。刑務所には食堂があるから、フォークもあるだろう。閉鎖されたときに搬出したかもしれないが、曲がって使えないのが一つや二つ捨ててあってもいいはず。
居房棟と事務棟の間に食堂を発見。もちろん厨房と配膳室もあり、あちこちの棚や抽斗を開けていたら、無事フォークを発見した。
所長室に戻り、抽斗の錠を開ける。ほとんど一捻り。しかし、抽斗には何も入っていなかった。冗談だろ。空の抽斗に、錠を掛けるはずがあるか?
もちろん、中に隠してあるのに違いない。上の抽斗を外して、ひっくり返す。ほうら、封筒が貼り付けてあった。そして中に鍵が。
とりあえず全ての抽斗を外して、裏を見る。他には何もなかったが、外して空になった“
と、ここでフィルから"Incoming Call"。
「研究所らしき部屋を見つけましたが、ドアに錠が掛かってて。かなり頑丈なので、壊せそうにないです」
「ちょうどこっちで、それらしき鍵を見つけたところだ」
他とは少し離れた、倉庫のような建物らしいので、そこへ行く。フィルには引き続き、他の建物に何か残ってないか、探してもらう。よくあるのは、看守控え室に日誌が残ってたり、独房に秘密のメッセージが書かれてたり、ってやつ。
さて、研究室。入る前に、外からさっと見る。窓には全て金網が付いていて、ガラスを割っても入ることができない。内側からヴェネチアン・ブラインドが下りていて、覗くこともできないのだが、ほんの僅かな隙間から、“化学室”によくある装置や備品がかろうじて見えるので、研究室と判るわけだ。
ドアの鍵穴に鍵を挿す。無事、回ってくれた。まあ、ゲームだからな。
中は、さほど広くない。それこそ、学校の教室くらいの広さ。テーブルがいくつか島状に置かれ、実験道具が整然と並んでいる。もちろん埃だらけだ。
蝶の研究をしてたのだから、蝶の標本でも壁に飾ってあるかと思ったのに、ない。いろいろなところに、蝶を入れていたであろうガラスの飼育箱が置かれている。中には木の枝が入れてあったりするが、もちろん枯れている。箱の底に積もっているゴミは、おそらく枯れ葉と蝶の死骸が腐って混ざり合ったものだろう。
蝶のサンプルが一つ二つ欲しかったのだが、これでは望めない。書類を探そう。環境が環境だけに、全て電子化されていたわけではあるまい。少なくとも、森の地図はあるだろう。ただ、高温多湿に10年も晒されていたら、紙だって状態が危うくなっているかもしれないが、そこはゲームの世界なので、何かあるはず。
壁際の、実験道具の棚に混じって、書類棚がある。ファイル・フォルダーが多数並んでいる。背に書かれた見出しがスペイン語なので、読むに読めない。全部アイテム化できればいいのだが、個数の上限があるのでは無理。
こういうときは、最初か最後を見るのがいいだろう。地図というものは、
#1:最初に作るべきもののはずで、最新まで同じファイルを更新していくものだ
#2:最新の状況は最新のファイルに入っているものだ
のいずれかに決まっている。この考えに従って、一番古そうなファイルを抜き出す。開くと、折りたたんだ紙が何枚も綴じられていた。予想どおり、地図だった。ボナンザ。
ついでに、最新も見てみる。何が書かれているかはもちろん判らないが、これは持っていく方がよさそうな気がする。パラパラと見ているうちに、写真を発見。綺麗な青と金の蝶が写っていた。ただ、俺が思っているより金の割合が多い。この地方に特有の配分だろうか。
研究ってのは、この金色を取り出したかったのかなあ。
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