#16:第3日 (17) 結果発表

  RESULTADO

  Primeiro, Turma T, 5:15'23"020

  Segundo, Turma Z, 5:34'58"357

  Terceiro, Turma S, 5:35'03"842

  Quarto, Turma Y

  Quinto, Turma U

  Sexto, Turma W


 ウィルとフィルが立ち上がって、部屋の中で跳んだり駆けたり。

やったケ・ボン! やったケ・ボン! やったケ・ボン!……」

すげぇオッチモ! すげぇオッチモ! すげぇオッチモ!……」

 語彙が貧弱だな。オリヴィアとローナは抱き合って喜んでいる。ローナの嬉しそうな顔は、初めて見た。笑ったら、結構美人じゃないか。だからどうだということはないけど。

「おめでとうございます。これで賞金が出ますわ」

 カリナが言いながら、なぜか俺の手を握る。VRの中では感じられなかった、ひやりと冷たい手だ。

「ありがとう。第1ステージに勝っても出るのか」

「ええ、優勝の1000分の1が」

 5千ドルか。それでも結構な額じゃないか。俺のパート・タイムの年収の10分の1だ。それが6時間で稼げるなんてね。ファヴェーラの連中にしてみたら、とんでもない額だろう。でもたぶん、金額より勝った方を喜んでるよな。

「次も勝ったら?」

「100分の1です。最終ステージでは順位に応じて賞金が出ます。2位は10分の1、3位は50分の1です」

「積算で?」

「いいえ、総額で」

 いくらもらったって、俺はこの世界で使い途がないんだけど。そもそもあのカードを使えば、無制限だし。

「明日のゲームのことをお知らせしますわ。第2組、6時からです」

 喜んでそこらを駆け回っていたウィルが、急に真剣な顔になって座る。フィルもオリヴィアももちろん真剣だが、ローナだけなぜかまた前の無気力な表情に戻った。次も見てるだけのつもりか。

 明日のゲーム開始は6時から。同じ組になるのは、第1ステージ第1組の1位、第2組の2位、第3組の1位。第2ステージから、チーム名を付けることができる。

「プロフェッサー、決定権はあなたにありますわ」

「Zチームでいいよ。特別参加ってことが判りやすいだろ。他のチームが油断するかもしれないし」

「"Turma da Cebola"がいいのに」

「何だって?」

「いや、何でもない」

 お前のチームじゃないんだよ、ウィル。

「申し訳ありませんが、そのままでは認められませんわ。1文字でも変えていただくか、何か言葉を追加していただくか」

「じゃあ、"The Z Team"で」

「かしこまりました。ポルトガル語名は"A Turma Z"としておきます」

 "A"が"The"か。ややこしい。じゃあ"The A Team"は"A Turma A"か。

「明日は15分前に集合していただくのがよいと思いますが、可能でしょうか?」

「俺は5時まで仕事だが、たぶん間に合うと思うね。君らは?」

「帰りたくない!」

 またかよ、ウィル。カリナに目で合図する。これでまた彼女に交換条件を与えてしまった。

「お嬢さん方は帰るよな」

「もちろん」

 オリヴィアが返事をするが、ローナは無視。

「明日、6時に来られる?」

「もちろん」

「他に何か?」

 カリナの顔を見ると、「1時間前からまた会議室をお貸ししますが?」。

「いるかね」

「いらないよ。明日のステージがどんなのか判らないんだから、作戦の立てようがない」

「じゃあ、5時45分に集合だ。今日は解散」

 部屋を出て、エレヴェイターで上がって、地下駐車場へ。ウィルとフィルは、また歩いて出て行く。

「ハンニバル、あんたのこと、見直したわ」

 カリナの車を待つ間に、オリヴィアが話しかけてくる。なぜユーザーネームで呼ぶんだ。

「何が?」

「だって、あんたの持ってきた壺や帽子やフォークが役に立ったし、最後のポルタンも見つけてくれたし」

「運がよかったんだろ」

「でも」

「他の場面では君らの知ってる“ゲームの常識”ってやつで調子よく進んだんだぜ。それに俺の代わりにローナが参加しても、同じことを思い付いたかもしれない」

 オリヴィアがローナを見るが、ローナはやはり不機嫌。まあ、後で二人で話し合ってくれ。

 昨日と同じように、車で二人を地下鉄の駅に送った後、ホテルへ。今夜はどうやって“カリナの陰謀”を阻止しようか。

「明日もお仕事の終わりに、お迎えに参りますわ。ISTイーエステー-Rioと伺っています」

 確かそのはず。しかし、明日もゲームをするとなると、その後もカリナにホテルまで送ってもらうわけで、明日も“カリナの陰謀”を阻止しなければならない。いや、明後日もだ! 気が休まらない日々が続くな。

「支社長の指示を聞かなくていいのかい」

「指示は出ます。先ほど、あなたのチームが2位になったことを祝うメッセージを受け取りました。後でホテルで披露しますわ」

 今夜はそれを理由に俺の部屋に入るつもりか。

「今夜は遅くならないうちに家に帰った方がいいよ」

「でも、あなたのお部屋で休憩して、お話もしたいですから」

 それが困るんだって。来るなと言えないのが俺の弱いところだよな。さて、何を話そうか。

「今日のローナの様子は?」

「もちろん、熱心に見ていましたわ。特に、あなたがキーの像を入手するところと、その後のトロッコトラック追いかけっこチェイシングを。手に汗握るブレスレス・サスペンスという感じで」

 やっぱりゲームを見るのは好きなんだろうなあ。

「俺たちが困っているところで、何か呟いたりしてた?」

「ええ、像を磨いてとか、アレイジャディーニョの墓を探してとか」

 しかも肝心のところでどうすればいいか解ってたってわけか。やっぱり本当は参加したいんだろう。次のステージでは、何とかして参加させてやりたいが、どうやって誘うか。

「彼女は俺のことを嫌ってるみたいだが、どうすれば心を開いてくれるかね」

「あら、嫌ってるなんて。そんなことないみたいですけれど」

「そうなのか?」

トロッコトラック追いかけっこチェイシングで、あなたが身を乗り出して分岐器ポイントを切り替えたときなんて、心配でたまらないというふうでしたわ」

 そのわりに、あの無表情は何なのかね。若い女の考えてることはよく解らないから。

「とにかく、どうすれば心を開いてくれるか、知りたいと思って」

「それはあなたのお部屋でゆっくりと相談しましょう」

 いかん、全部そっちに結びつけられてしまう。どうしよう。今朝、メグに頼んだことが、うまくいけばいいんだけど。

 ホテルに着いて、車を降りる。もちろん、カリナも降りて付いて来る。フロントレセプションの前を通るとき、フロント係デスク・クラークに呼び止められた。メッセージが二つあると。

「一つはコムブラテルのセニョリータ・オリベイラからで、課題の答えはまだ解らないと。もう一つは文民警察ポリシア・シヴィウのサルジェンタ・マシャドからで、明朝の電話をお待ちしてると」

 どうしてこの二人は何でもないことでメッセージを送ってきたんだ? で、俺が朝、メグに頼んだ件はどうなったんだ。

「アイリスが受け取って、寝室に置いて参りました。お確かめください」

 よし、それで“カリナの陰謀”を阻止できるかもしれない。フロント係デスク・クラークにチップをやって、エレヴェイターに乗る。

「プロフェソールのお仕事のお相手は女性ばかりなのですか?」

 そんな、いかがわしい仕事をしているような訊き方をしないでくれるか。

「案内係や、プレゼンテイションをする担当に、女性が多いってだけだよ。きっと偶然だ。明日は違うだろう」

「そうですか。でも、サルジェンタ・マシャドにはお気を付けになった方がいいと思いますわ」

 君、他人のことが言えるのか。

「彼女のことを知ってるのか」

「ある意味で有名な女性研究者ですから」

「どういう意味で」

「それはご自分でお確かめになって」

 エレヴェイターがフロアに着いてしまった。もちろん、カリナは部屋の中まで付いて来る。ソファーを勧めておき、ベッド・ルームへ行って、アイリスが置いた“物”を取って来た。

「あら、何ですの?」

 こら、どうしてバス・ルームへ行こうとしている。

我が妻マイ・ワイフの写真だ。マーガレット・“メグ”・ナイト」

 花のような笑顔の写真で、あまりにも美しいので大きなポスターにしてそこらに貼っておきたいくらいだ。

「まあ、お美しい奥様ワイフですこと! でも、こんな方と1週間も離れてお仕事なんて、さぞお淋しいことでしょう。私が代わりにお慰めしますわ」

 しまった、逆効果だったか? 嫉妬させて怒らせようとしたのに。あっ、写真を持ってバス・ルームへ入るんじゃない! やれやれ、今夜も“陰謀”に耐えないといけないのだろうか。


「ヘイ、ビッティー」

 屋上に出ると、いつの間にか雨が降っていた。南国の雨というのは心地よいものだ。しかしビッティーを呼べば、雨に降られなくなる。見えない壁と天井が張られて、スポット・ライトが降りてきた。

「ステージを中断します。裁定者アービターがアーティー・ナイトに応答中です」

 アヴァター・メグはアンティーク・ブルーのショート・ジャケットに同色の膝丈スカート。襟付きの白いVネック・ブラウスで、品行方正な秘書といった感じ。オーストラリアで初めて見たときを思わせる。浮気をするなというメッセージだ。きっとそうだ。すぐ来て、助けて欲しいくらいだ。

「グッド・イヴニング、ビッティー。昨日の情報は、部分的だが役に立ったよ。ありがとう」

「どういたしまして」

「今日の質問は少ない。リオ連邦大学と、IST-Rioについて教えてくれ」

「リオ・デ・ジャネイロ連邦大学は、1920年にリオ・デ・ジャネイロ大学として設立。当時リオはブラジルの首都で、国内最高教育機関として運営されました。37年にブラジル大学に改称。首都がブラジリアに移った後、65年に現在の名称に改称。連邦大学としては現在でも最大規模です。著名な卒業生は、建築家オスカー・ニーマイヤー、詩人・作曲家ヴィニシウス・ヂ・モライス、音楽家イヴァン・リンス、作家ジョルジェ・アマードなどです」

 残念ながら誰一人として知らない。

「IST-Rioは、2000年にコンピューター科学の高等教育機関として設立。最新の教育方法論を用いて教授する方針を採用しています。国内で常に10位以内、コンピューター教育に関しては常に3位以内の評価を受けており、政府や各都市の公共機関と多くの共同研究に関わっています」

 またコンピューターの難しい話に付き合わないといけないんだろうな。

「今日俺が会った、文民警察シヴィル・ポリス巡査部長サージャントは、本当に連邦大学の出身?」

「このステージは、そのように定義されています」

「彼女、見た目は真面目そうなんだけど、本当の性格を教えてくれるかい」

「ご自分でお確かめください」

 何となく嫌な予感がしてきたんだけど、カリナの相手も大変だし、どうすればいいかねえ?

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