ステージ#14:第6日
#14:第6日 (1) 見つけた!
第6日-2017年2月10日(金)
ダブル・ベッドに大人が3人で寝るのはやはり狭い。一応、一人はガキなのだが、大人並みのスペースを占有する。しかも寝相が悪い。ときどき抱き付いてくる。俺を抱き枕と勘違いしているらしい。
しかし、ずっと抱いているのではなく、ときどき突き飛ばして、寝返りを打って離れていく。いつもはぬいぐるみを抱いて寝ているのだとしたら、そいつはきっと朝になったらベッドの下に放り投げられているだろう。可哀想に。
もう一人の大人はとても静かに眠る。呼吸の音しか聞こえない。寝ぼけたふりをして抱き付いてくれてもいいのだが、そうしない。ただし、ときどき手を握ってくる。たぶんそれは寝ぼけていない。
そして俺はどうして夜中に起きているのだろう。よく解らない。たぶん、疲れていないからだろう。昨日はランニングをしてないし、基礎トレーニングもしてない。気疲れするようなこともなかった。頭も身体も疲れていないので、眠りが浅いのだろう。
それでも寝なければならない。眠らないまでも、ベッドに仰臥していなければならない。ただし寝返りも打てない。なかなかつらいものだ。
喉が渇いたふりをして、起きて冷蔵庫の中の何かを飲む、ということくらいならしてもいいかもしれない。そうしておいてから、外のデッキ・チェアで寝るのが一番楽な気がするなあ。
さすがに今夜は、俺がいないと寝られない、ということもないだろう、二人とも。そもそも、3人で一緒に寝なければならない必然性もなかった気がする。
目が冴える、ということはないが、目を閉じていても眠れないので、やはり場所を移す。二人の身体に触れないようにしてそっと起き、窓際へ。外へ出るのはやはりよくない気がするので、ソファーへ寝転ぶ。冷たくて気持ちがいい。足がはみ出すが、これくらいは気にしない。ベッドの狭さを補うために、ソファーを動かして、ベッドの横へ付けておけばよかったかな。
とにかく、ちょっと気分が変わった。横に誰も寝ていないのは落ち着く。やはり俺には独り寝が似合っているようだ。二人寝に慣れるには、それが当たり前と思えるくらい何度も経験しなければならないだろう。三人寝はもう二度としたくない。
次に目が覚めると、窓の外が明るくなっていた。横を見ると、メグが椅子に座っている。そんなに近くに座らなくても。膝が頭に付くじゃないか。見上げると、曖昧な笑顔を浮かべている。頼むから怒らないでくれよ。顔がゆっくりと降りてきて、唇を奪って去っていった。
「隣に二人もいるのはやはり寝づらかったでしょうか?」
「ベッドの幅がもうあと1フィートあればよかったんだがな」
「今夜は私かロレーヌがソファーで寝ることにします」
ロレーヌにしてくれ、って俺が言うことを期待しているだろうな。ずるいが、とりあえず結論は出さないでおく。俺がソファーで寝るのが一番いい選択肢だと思うんで。
起きて時計を見ると、6時5分前だった。あと5分寝ていればキスで目覚められたわけだ。バス・ルームで顔を洗って、着替えて出てくると、ロレーヌがベッドの上に座っていた。眠そうな顔をしている。こういうときはガキらしい表情だ。
走る準備をして、外へ出る。中の二人は出かける用意。もちろん、ムリ教会で待ち合わせる。彼女たちは自転車を借りる手続きがあるが、たぶん俺の方が後に着くだろう。いや、俺の準備運動が終わるまでに、彼女たちが走り出すかもしれない。
その準備運動をしながら、ビーチを眺める。一定の曲率の綺麗な弓形だ。右手に見える島の端までは5マイルほど。ただし、最後の1マイル強にはビーチがないことが判っている。ムリ教会までは3マイルほど。
では、スタート。右手の海は遠浅なので薄いアクア・グリーン、左手は南国の植物と広葉樹の深い緑。その間の、真っ白な砂の上をひた走る。珊瑚の砂で、粉のように粒が細かい。夜の間に波が引いて、足跡が消されたところがある。積もったばかりの雪原のように、足跡一つない砂の上を走るのは、とても気分がいい。
調子よく走っているが、周りの景色がほとんど変わらないので距離感がつかめない。右はずっと海、左はずっと林、彼方の岬はなかなか近付いてこないからだ。
頼りになるのは自分の感覚だけ。いつもと同じスピードで走っていると信じ、約30分経ったら教会に着くだろうと期待する。もちろん、メグとロレーヌには、教会前のビーチで待っているよう頼んである。
15分ほど走っても、スタート地点から景色が変わった気がしない。走る方向と、岬の見える方向との間の角度が、だんだん小さくなってこないといけないのだが、ビーチの弓形、つまり弧の曲率が小さすぎるので、角度の変化も小さくて認識できないのだろう。
しかし、とにかく走るしかない。メグとロレーヌに、1マイルおきにビーチに出て来て手を振ってくれ、と頼んだ方がよかったかな。とはいえ、彼女たちだって1マイルを測る術を持っていないから、無理だろうけど。
もう15分ほど走って、ようやくビーチに人が立っているのが見えてきた。もちろん、メグとロレーヌ。ただし、手を振っているのはメグだけ。ロレーヌは海を見ている。
「ちょうど30分でしたね!」
「君たちは何分前に着いた?」
「3分ほど前です。自転車を借りる手続きにちょっと時間がかかって……スタッフがいなかったんです。前日に申し込んでおくべきでした。最初は大急ぎで走ったんですけれど、すぐに疲れてしまって、スピードが落ちました。でも、あなたが到着する前に着いてよかったです」
メグが笑顔で話しているのに、ロレーヌはこっちを見ようともしない。完全に他のことに気を取られている。でも、理由は解る。目でメグに合図して、ロレーヌの方を見る。
「教会の前に着いたときに、
そんなことだろうと思った。何も目印がない場所が思い出の地であるはずがないわけで、そうすると宿泊場所の近くか、観光に値する場所ということになる。ここは、ジート・モアゲという宿泊地があり、教会がある。見事にボナンザというわけだ。
「ところで教会は」
「聖堂と言うには小さすぎるくらいの、カラフルでとても可愛らしい建物です」
メグが陸側を指差す。道路との間の並木にちょうど切れ間があり、教会が見えている。クリームの壁に赤い三角屋根を載せ、入り口の周りが青く塗ってあり、おもちゃのようだ。ビーチに立ち尽くしているロレーヌに「好きなだけビーチを見ていてくれ、教会へ行ってる」と声をかけ、メグと手をつないで見に行く。
道路から短い取り付け道を入ったところにあるが、その道の両側に作ったような並木が立っていて――たぶん作ったのだろう――、観光客に配慮しているな、という感じだった。しかし、道の舗装状態はよくない。
近付いてみると、壁がだいぶ傷んでいる。煉瓦風の柱や、入り口の上の丸窓が特徴と言えば特徴なのだが、それも劣化が進んでいる。入り口の周りの青だけが最近塗り直したかのように鮮やかだ。せめて仮想世界の中だけでももう少し修復できなかったものか。しかし、
入り口が開いていたので、遠慮なく中に入る。壁の漆喰もところどころ剥がれている。木の長椅子がただひたすら並んでいるところは
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