#14:第6日 (2) 既視感
さて、教会を見に来たのは、実は理由がある。メグに訊きたいことがあった。
「フランスの結婚式は教会でするのか」
「式は教会でしますが、入籍は役所です。それに、結婚する二人か両親の住んでいる町の役所へ、何ヶ月も前に予約する必要があります。当日は両人と保証人と町の首長がサインをして、ようやく結婚成立です」
「急に思い立って結婚することはできないんだな。オーストラリアでは?」
「場所が自由なこと以外は、ほとんど同じです。首長の代わりに、結婚執行者の資格を持った人が立ち会います」
「じゃあ、合衆国の方がだいぶシンプルだな。役所で結婚許可証を取得したら、最短4時間後に式を挙げて、証明書を提出すれば成立だ」
「配偶者が外国人でも?」
「君に必要なのはパスポートだけだよ」
メグが嬉しそうに腕を絡めてくる。しかし、本当に結婚しようと思ったら、何とかしてフォート・ローダーデイルへ戻らないといけないわけで、それが実現する見込みは薄い。現実へ戻ったとしても、どうやってメグを探せばいいだろうか。俺がいるのとは違う時代の人間かもしれないし。
これ以上見て回るほど広くはないので、外へ出る。ロレーヌは来そうにない。ビーチへ戻ると、ロレーヌが砂の上に座り込んで何かやっている。近付いて見てみると、砂山を作っていた。なぜそんなことをしたくなったのか。
「昔、こうして遊んだと思うの。憶えてないけど。砂がさらさらで、とても手触りがいいわ。山を作ってもすぐに崩れてしまうのね」
なぜだかメグまで座り込んで、ロレーヌの作った砂山に砂を盛り始めた。綺麗な砂を見ると、女はガキに戻るのだろうか。俺の場合、湿った砂で山を作って、固めて、トンネルを掘るのが好きだな。二人で両側から掘り始めて、貫通したら真ん中で握手をするんだ。そして最後に山ごと踏み潰して終わり。
二人は山を高くするばかりできりがないので、夕方にもう一度来よう、と声をかけてランニングを再開する。無人島に送迎してくれるのはこのすぐ近くのコテージのスタッフなんだから、帰りはこっちへと言ったら喜んで聞いてくれるだろう。
帰りは行きよりももっと変化の少ない景色を見ながら走る。ムリ島とウヴェア島を合わせて、何マイルくらいこの弓形のビーチが続いているのだろうか。
部屋に戻って、シャワーを浴びて着替え、レストランでビュッフェの朝食。メグは当然のように俺の食べるものをサーヴしようとする。シリアルの他に、クロワッサンと野菜、ハムの脂身の少ないところと、後はフルーツを何切れか。彼女自身も同じものを食べるようだ。
ロレーヌはフルーツしか食べない。成長期はタンパク質を摂るべきなんだがな。その、白につぶつぶが入ってるのは? ドラゴン・フルーツか。赤につぶつぶは? それもドラゴン・フルーツの色違いか。
「正式にはピタヤという植物の実です。果肉がピンクのものや、果皮が黄色のゴールデン・ピタヤやイエロー・ピタヤがあります」
メグの解説が入った。素晴らしい。俺も今度“農家”を名乗るときは「最近、ドラゴン・フルーツの栽培を始めたんだ」と言って、今聞いた色違いの話をしてみよう。
部屋に戻ると、今度は下を水着に着替える。迎えが来る9時まではまだあと1時間ばかりあるのだが、今から着替えてたって待つのに支障はない。俺の後でメグも水着に着替えた……はずだが、上のTシャツはいいとして、下のドルフィン・ショーツがやっぱりセクシーすぎるので、ロング・パンツに穿き替えさせた。
ロレーヌはレストランから部屋へは戻らず、ビーチに直行してしまった。また砂山を作っている。なぜあんな単純なことが飽きないのだろう。
一声かけてから、メグと二人でホテルの中を散策する。特に珍しいものがあるわけでもなく、本館の向こう側にプールがあり、その向こうのバンガローはテラスに
林を抜けて道路を渡り、東側のビーチに出てみる。狭い海峡を挟んで、ヴァイアヴァ島が見える。人が住んでいるそうで、家が見えている。海峡は浅くて、引き潮の時なら歩いて渡れるかもしれない。
ビーチをゆっくりと歩き、人目がないので途中でいろいろなことをしながら、9時前に西側のビーチに戻った。メグが部屋へ、無人島行きの荷物を取りに行く。ビーチ用のアクティヴィティー用品など持ってきていないはずだが、何だろうか。
しばらくすると、赤い
「ボンジュール、ムッシュー・エ・マドモワゼル。ジー島への無人島ツアーに迎えに来たわ。3人と聞いていたんだけど、あと一人は? ああ、そこから来るマダムかしら」
マダムじゃない、まだマドモワゼルだ。しかし、何だろう、この
荷物を持ってきたメグは、女よりも
とりあえず、女の方から自己紹介。ディアヌという名前で、夏場だけジート・モアゲの手伝いをしているらしい。そしてやはりというか既婚者。そこだけは安心した。俺とメグを見て「
「そっちのとても美しい
「ホテルに泊まっている他の夫婦の娘さんですけど、無人島へ行きたいから一緒に行くことにしたんです」
「その夫婦はどうして行かないのかしら」
「船に乗るのが怖いそうです」
どうして例の“姪”という言い訳を使わないのだろう。しかし、何と紹介されてもロレーヌの方はそれを否定しようとしない。そういうところだけ配慮が大人だ。
さっそくボートに乗り込もうとしたが、ハンサム・コンダクターがメグとロレーヌにダメ出しをする。
「そんな
メグが俺の方を見て「それ見たことか」という顔――ただし笑顔――をしている。俺は男が迎えに来ると思ってたから、そいつに見せたくなかっただけなんだ。ロレーヌは躊躇なくさっさとパンツを脱ぐ。下はもちろんビキニのボトム。メグも脱いで――下はワン・ピースの水着――その上からドルフィン・ショーツに穿き替えた。ディアヌはなぜ穿くのかという呆れ顔をしていたが、再度のダメ出しはなかった。
ようやくボートに乗る。ディアヌは俺を後ろに座らせようとしたが、メグと共に前に乗る。後ろにはロレーヌ。ボートは前からビーチに突っ込む形で泊めていたので、エンジンを逆転させてバックし、それから方向転換して海の上を突っ走る。
風は穏やかで波は小さいのに、飛沫がどんどん飛んでくる。パンツが濡れるどころではなく、シャツがみるみるうちに湿っていく。メグが小さい声で"Wow!"を連発する。笑顔だから、喜んでいるのだろう。意外にスピード
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