#14:[JAX] 電話の罠
練習時間の休憩中に、メッセージを二つ受け取った。どちらもマギーから。一つは「注文の本が届きました」。素晴らしい。今夜はマギーの部屋で泊まることができるわけだ。早く練習を切り上げたくなってきた。
もう一つは「CL3は今夜ジムへ行きます」。
いやいや、どうせなら3人のイニシャルを並べてNBLはどうだ。ノーラ、ベス、リリー。これなら、他の人が見たらバスケットボール・プレイヤーと間違える可能性の方が高い。それでこそ
ともあれチア・リーダーの件は、休憩が終わる前にボビーに伝えておく。これで自動的にほぼ全プレイヤーに伝わるだろう。もちろんノーラのことを気にするヴォーンにも。後はダニーに言うかどうか。週末のことで頭がいっぱいだろうから、やめておくか。
そのダニーのやる気がありすぎて、
「ハイ、アーティー」
クロス・トレーナーを使いに行くと、ベスに声をかけられた。また俺の“専用”マシーンを使っている。今日からは隣のを俺専用にしよう。
「ハイ、ベス。今日はたくさん来てるだろ」
「ええ、本当。ゲームが近いとこうなるのかしら?」
「君たちが来るから、いいところを見せたがってるんだ。トレーニングが終わったら誰でも好きなのを連れて帰っていいよ。きっと食事をおごってくれる」
「こんな時間から食事はしないけど、就寝前のハーブ・ティーが飲めるなら行ってもいいわ」
「そういうのを飲める店を知ってる奴はいないだろうから、君が紹介してくれると助かる」
「店は選ぶから、あなたは人選をお願いね」
「どうして俺が」
「だって、この場ではあなたが
誰がそんなことを。まさかマギーか。仕方ないな。マシーンをあちこち渡り歩きながら、本日ニュー・カマーの3人に声をかける。テディーとカールとJ.C.。彼らなら話がうまいから、CLたちも喜んでくれるだろう。
その3人とCLたちを先に店へ行かせ、
電話で教えられた店に行くと、女が4人いる。なぜかヴィヴィが来ている。テディーがベスとヴィヴィを相手にしている。ベスが教えたのかな。テディーはきっとベスを気に入っているだろうから、俺がヴィヴィの相手をしないと。
しかし、ヴィヴィの前に座ろうとすると、テディーが「お前はこっち」とベスの前の席を空けた。そしてヴィヴィと熱心に話を始めた。お前、羊が好きだったのか。
オレンジ・ジュースを頼み、ベスと話し始めてしばらくすると、リリーとノーラが席を立った。手洗いに行ったようだ。カールとJ.C.の前の席が空き、ベスが気を遣ったかそちらに移動して、二人と話を始めた。リリーとノーラが戻ってくると、二人して俺と話をしようとする。何だこれは、どうなってるんだ。
「アーティー、あなたってつい最近まで、ジムに住んでたって本当?」
リリーが聞いてきた。どうしてそんなこと知ってるんだ。最近って、つい今朝までだぜ。
「そうだ。スタジアムに近いところに住みたかったんだが、いい部屋がなくてね」
「確かに、ジムならいつでも練習できるものね」
「車は持ってないの?」
今度はノーラが訊いてくる。
「持ってない。
「モトなら少し遠いところからでもスタジアムやジムに来られるじゃないの」
「練習の前に乗ると、指や腕の調子が悪くなるんだ。振動のせいかもしれないと思ってて」
「
「人による。ダニーやブライアンはそんなことないと言ってた」
「ブライアンって誰?」
「あなたの指や腕は特別繊細なのかしら」
「ところがそうでもない。ダニーやスタンリー……プラマーはブライアンの前の
我ながらつまらない話をしているが、リリーとノーラは興味深そうに、しかも交互に相槌を打ったり質問したりする。何か協定でもできているのだろうか。
30分ばかり付き合ってから解散し、OOT組の待つ店へ。こちらではミーティングかと思うくらいフットボールの話ばかりしている。でも俺はその方が楽しい。
真夜中過ぎにスタジアムへ戻った。入り口で端末にIDカードをかざし、中に入る。そういえば0時を過ぎてからここに入ったら、理由書の日付はどうすればいいんだろう。
それはともかく、マギーのオフィスへ。灯りを点けると、いつもマギーが座っているデスクの後方に、デッキ・チェアが置いてあるのが見えた。その上にはたたまれたベージュのブランケット。素晴らしい、これで今夜はここで寝られる。
バッグを床に置き、デッキ・チェアに寝転んでみる。角度を調整して、快適に寝られるようにする。上を向くと白い天井。ビーチ・ベッドで天井を見ながら寝るなんてのはなかなかない。いや、リゾート地のコテージに行ったら、テラスにビーチ・ベッドが置いてあって、というのがありそうだな。ただその場合、天井は木じゃないかと思う。
ちょっと寝返りを打って、マギーのデスクの方を見る。主のない椅子が置いてあるが、もしそこにマギーが座っていたら、と想像してみる。マギーが仕事をする後ろ姿を見ながら寝るなんてのは、なかなかできることではないだろう。マギーの夫くらいかな。
そしてマギーなら、俺に背中を見られながらでも、淡々と仕事をこなすに違いない。その邪魔をしたくはないが、もし声をかけたら「何かご用でしょうか、ミスター・ナイト」と言いながら椅子をくるりと回転させ、寝転んでいる俺を冷たい目で見るに違いない。
「何でもない、君が振り返るところが見たかっただけなんだ。気にせず仕事を続けてくれ」
「
冷たく返事をして、また椅子を回転させ、デスクに向かって仕事にふける。うーむ、我ながら何と
「ハイ、ジャスティン、
さて、この餌に盗聴者はちゃんと食いついてくれるだろうか。いつになるかなあ。
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