#14:[JAX] ランチ・デート
ジャクソンヴィル市街地-2065年12月14日(月)
ランチの約束は12時にダウンタウンのレストラン“マデイラス”なのだが、15分前にその近くのコーヒー・スタンドでヴォーン・パノスと待ち合わせた。
奴がチア・リーダーのお目当ての娘を食事に誘うのだが、それにちょうどいいレストランを紹介したのはもう3週間も前だ。それなのにまだ声をかけていなかったどころか、俺に付いて来て欲しいとはどういう了見なのか。高校生の初デートでもそんなことはしないだろう。
「それが、誘ったら二人で来るって言うもんだから」
「誰が付いて来るって?」
「ヴィヴェカって女だ」
「マネージャーだな。デートのマネージメントもしてるのか」
「知らんよ。とにかく、お前にレストランを紹介してもらったから、お前が適任だと思って」
「俺は女との付き合い方なんか知らんよ。それより、お前の目当てがエレノアだからって、ヴィヴェカの機嫌を損ねるなよ。その二人は特に仲がいいらしいし、ヴィヴェカに気に入らなかったら、エレノアとは付き合えないだろう」
「どうやったらヴィヴェカに気に入られる?」
「そんなこと自分で考えろ。しかし、基本は二人に均等に話しかけるんだ。片方だけをひいきにするな。それから、相手の話もよく聞くことだ」
「お前がヴィヴェカの相手をしてくれれば助かるんだが」
「俺はお前を引き立てるために来ただけだ。お前が主役を張らなくてどうする」
5分前にレストランへ行って待つ。ヴォーンが緊張している。プロになって初先発の時よりも緊張しているだろうと思う。
約束の時間より5分遅れて相手の二人が来た。入り口できょろきょろしていたので手を振って呼んだが、本来はヴォーンがやることだと思う。
「ワァオ! 本当にヴォーン・パノスとアーティー・ナイトだわ!」
羊のような顔をした女が言う。サイド・ラインで見たことがない顔なので、彼女がヴィヴェカ・スコールズだろう。そしてもう一人の、濃いブルネットの模範的な美人がエレノア・チェンバーズだ。こちらの方ははっきりと見覚えがある。
ゲーム中、俺がパスを投げられずにスクランブルでサイド・ラインへ走り出た時、チア・リーダーにぶつかりそうになったことがあった。避けられないのでとっさに抱きしめて難を逃れたのだが、それが確か彼女だった。
その時に確かジョークとして「初めまして、アーティー・ナイトだ。ジャガーズの
ヴィヴェカはヴィヴィ、エレノアはノーラと呼んでいいらしいので、以後そうする。ノーラをヴォーンの前に座らせ、ヴィヴィを俺の前へ。
ノーラは誘ってくれたことに対して礼を言ってくれたのに、ヴィヴィは「ここって何がおいしいの?」と言ってメニューを開いている。食べるのが目当てで来たことがはっきりと判って、扱いやすそうだ。
とりあえず、ヴォーンはここへ3回も
え、それ全部食べる? 君ら、すごい食欲だな。
「東海岸の生活は慣れたかい?」
「ええ、だんだんと」
「困ったことがあれば、チーム・スタッフだけじゃなくて、俺たちプレイヤーに訊いてくれたっていいんだぜ」
ヴォーンよ、無難な切り出し方で、お前らしいな。まあ、フットボールのゲームでは、
だいたい、ここ6ゲームは全部
ところで、彼女たちってサン・ノゼから来たんだっけ。チア・リーダーになるために大陸を横断してくるっていうのも確かにすごいことだ。季候はよく似てる? でも、夏はこっちの方が雨がずっと多いと思うぜ。
「ジャクソンヴィルって、フットボールの人気がすごいのね。サン・ノゼはバスケットボールの方が人気があるんだけど」
「そうかい。確かに、サン・ノゼはバスケットボールのチームがあるからな。俺が生まれた頃にはサン・ノゼのすぐ近くのサンタ・クララに、
「私たち、いろんなチームのオーディションを受けたんだけど、今年のロアーはリザーヴ・リストに残ってたの。それで、1ヶ月前のメンバー追加の時に呼ばれたのよ」
ロアーはジャガーズのチア・リーディング・チームの名前。ジャガーの“
ジャガーズはここ数年、いや十数年、ずっと負け越しで人気が落ちていたので、チア・リーダーも人数を減らしていたらしい。ところが第8週以降、3連勝、しかもそれが全て最終ドライヴでの劇的な
そのせいかどうかは判らないが、さらに3連勝して7勝5敗。テキサンズを追ってAFC
彼女たちは4人組でジャクソンヴィルへやって来たが、ヴィヴィはダンサーではなくマネージャーで、確かもう一人追加のダンサーがいたはず。名前は思い出せないが、サイド・ラインで声をかけたことがあって、かなりの美人だ。ただし、「競争率が高い」とも聞いている。俺は競争するつもりはない。
ノーラたちはサンタ・クララ大学出身で、バスケットボール部でチア・リーダーをしていた。そのことはマギーから聞いていて、ヴォーンにも教えてある。しかし、知らないふりをして彼女たちの過去をいろいろと訊く方が話を進めやすい。ヴォーンはなかなかうまくやっている。
ヴォーンとノーラは話をしながら食べているが、ヴィヴィは食べながら話している。俺は時々相槌を打ったり、ヴォーンがど忘れしていることを補足してやったりするだけだ。なかなか楽でいい。
「ハーイ、ヴィヴィ、ノーラ、あなたたちもここに来ていたの。あら、デート中かしら?」
突然、赤っぽい金髪のゴージャスな美人がノーラたちに声をかけてきた。もう一人、濃い金髪の
「ハイ、ベス、リリー! そうなの、ヴォーンとアーティーがランチに誘ってくれたのよ。あなたたち二人も紹介するわね」
エリザベス・“ベス”・チャンドラーとリリアン・“リリー”・スタンフォード。確かベスは、俺がゲーム中にサイド・ラインの外へパスを投げ捨てた時、そのボールを見事にキャッチして観客から声援を浴びたことがあるはずだ。
普通は避けるものであって、たまにどんくさいチア・リーダーが避けそこなって頭や身体にボールをぶつけることもあるのだが、キャッチするのは前代未聞だろう。よほど
で、ベスとリリーは何をしに来たんだ。ノーラたちがここでデートをしてることくらい、知ってるだろう。絶対にヴィヴィが情報を漏らしてると思うぞ。
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