ステージ#13:第2日
#13:第2日 (1) 朝の公園、朝の浜辺
第2日 2007年7月2日(月)
「ヘイ・ビッティー!」
もちろん、今日はステージ内の偶数日。ビッティーとの通信のために、夜中のビーチに降りてきた。通信が可能な時間は0時から2時まで。場所は海から100ヤード以内。
「ステージを中断します。
「ここは気持ちのいいところだな、ビッティー。オデッサについて教えてくれないか」
「オデッサはウクライナ南部にあり、黒海に面した都市で、州庁所在地です。人口は約100万人。キエフ、ハルキウに次ぐウクライナ第3の都市です。国内最大の港湾を有し、国を代表する工業都市で、またリゾート地としても知られています」
「他民族都市なのか?」
「ウクライナ人が約60パーセント、ロシア人が約30パーセントを占めています。ブルガリア人とユダヤ人が1%強、その他の民族は1%未満です」
港があるから、黒海に面する他国人が集まるとは思うのだが、それでもウクライナ人とロシア人に偏っているということか。他国人はリゾートに来てるのかな。
「オデッサ以外へ行くことはできる? 例えば、イスタンブールとか」
「可動範囲はご自分でお確かめください」
ドイツに近い架空の国では、湖の周りの町へ行くことができた。ここでも一応、船に乗れるかどうかは確かめておく必要があるな。
「ウクライナには美人が多いのか?」
「美的感覚は個人によって異なりますので、一概には言えません」
「俺が見る限り、子供から中年まで美人ばかりだったように思うんだ」
老人を省いたのは、ほとんど見かけなかったからだ。あるいは俺の目に入ってなかっただけかもしれない。
「それはあなたの感覚ではそう見えるというだけに過ぎません」
「美人が多くて俺が嬉しがっているから、拗ねているとかじゃないだろうな、ビッティー」
「そのようなことはありません」
「君が次にアヴァターを使うときには、俺の好みで見かけを調整できると嬉しいんだが」
「お気持ちはありがたく受け取ります」
「今夜は以上だ」
「ステージを再開します。おやすみなさい、アーティー」
「おやすみ、ビッティー!」
今夜のところは、オデッサに関する基本的な事柄しか訊くことがない。明後日までに、質問のネタをたくさん用意しておくことにしよう。
【By ピアニスト】
朝の散歩なのに、こんなに遠いところまで来てしまった。しかし、来て良かったと思う。季節がいいので、他に散歩している人も多い。走っている人もいる。少女たちの姿が多い。トレーニングをしているのだろうか。
再び、海を見る。黒海という名前だけれど、水は青い。朝のうちは特に青く見える。しかし、これよりももっと青い海があるのだろう。あるのに違いない。私はそれを見てみたい。
それはきっと、もっと南の国だろう。太陽が、もっと高いところまで上がる国。暑いかもしれない。けれど、その暑さを感じてみたい。そうすれば、私の知らない国に来たことを実感できるだろう。
公園を、もう一回りしてみよう。たくさんの人と行き違う。ゆっくり走っている人は、健康のために身体を作っているのだろう。私も走った方がいいかもしれない。けれど、無理はいけない。速く歩くことから始めた方がいいだろう。それには靴を買ったほうがいいに違いない。
今頃こんなことを思い付くなんて、どうしたのだろう。でも、新しいことを始めるのは、それを思い付いただけでも、心が弾んでくる。
たくさんの少女たちが走っている。みんな、明るい表情をしている。朝の運動は気持ちがいいからだろう。空気も綺麗。
男性が近付いてきた。知らない人。筋肉質のたくましい身体。ギリシャ彫刻のよう。話しかけてきた。どうして私に?
ええ、一人で散歩を……いいえ、この町に住んでいるのではありません。一時的に滞在しているだけで……この壁ですか。確か、ハッヂベイという、昔の城塞の跡だったと思いますが、詳しいことは存じません……さあ、建築は詳しくないので、特に興味があるわけでは……ええ、美しいかといえば、そう思います。昔のものが、これほど状態良く残っていますから……ランジェロン門ですか? 確かあちらの方に……いいえ、私はそちらには行かないので……でも、もう帰らなければなりませんから……さようなら、良い一日を……
今のは誰だろう。どうして私に話しかけてきたのだろう。私が、一人で寂しそうに見えたのだろうか。もう一度、
あの男性がそちらへ歩いて行ったから、しばらく時間を置かないとまた会ってしまう。競技場の方へ寄り道していこう。
また、少女たちがたくさん走っている。挨拶をしてくる少女もいる。私も挨拶を返す。
おはようございます。ここへ立つのですか? ええ、
……あの、いつまで見ていればよいですか? 私、もう帰ろうと思っているのですが……
【By 主人公】
6時に目が覚めた。よく寝た。予定どおり、ランニングへ行こう。顔を洗って、トレーニング・ウェアに着替える。もちろん、ボールを持っていく。
ビーチへ出る。準備運動をしてから走り出す。こんな早い時間には誰もいないだろう、と思ったら、一人いた。女だ。スカイブルーのドレスを着ていて、セクシーでプロポーションがいい。昨日、どこかで見かけた気もする。散歩をしているのだろうか。「おはよう」と声をかけたが、微笑むだけで言葉を返してこなかった。
女と行き違って、しばらくしてからボールを投げる。想定していたところに落ちない。ボール1個分ずれているようだ。大変なことになった。トレーニングをサボりすぎたせいだ。それとも前回の怪我の影響か。
トレーニングに付き合ってくれる相手を探さないといけないが、どうしようか。ホテルの客の中から探した方がいいだろう。男がいいが、もちろん、男並みに体力のある女でも構わない。そんなに都合よく見つかるものか。
ボールを拾って、もう一度投げる。やっぱりずれている。とにかく、一人でできる限り修正しよう。この後、調査へ出掛ける前に、もう一度ジムへ行った方がいいかもしれない。
向こうから女が走ってきた。俺と同じく、ランニングをしているようだ。鍛えるための走り方だな。
イエローのタンク・トップに白のドルフィン・ショーツ。いい太股だ。というか、昨夜ジムで見かけた女だよな。
俺のことに気付いているくせに、目を合わそうとしない。別にそれでも構わないのだが、そんなきつい目をしなくても。これは多分、明日からサングラスをしてくるだろう。
その女と行き違って、しばらくしてからまたボールを投げる。全然ダメだ。筋肉が衰えているのか、それとも感覚が鈍っているだけなのか。
フォームを確認してくれる相手はいないから、ヴィデオで撮るか。いや、ラーレには頼みたくない。他のことをやらされそうだから。
1マイルほど走って、折り返す。短いパスから長いパスまで、一通り投げてみる。どれも少しずつずれる。ほとんどずれないのは7ヤードくらいまで。
こんなことでは、現実世界に戻ったら
またあの女が走ってきた。俺より速く走っているようだ。体力があるんだなあ。その先では、もう一人の女がまだ散歩を続けていた。ほとんど場所を動いていないが、何をしてるんだ?
ホテルの近くまで来てまた折り返す。散歩女は海に向かって腰に手を当て、ポーズを取っている。もしかしてそういうことを練習しているのか。どうでもいいことだが。アスリート女が走ってくる。やっぱり俺より速く走っているのか、それとも距離が短いのか。
結局、3往復する間にアスリート女と計6回すれ違った。俺より長い時間走っているのは間違いない。散歩女は最後だけ見かけなかった。
ホテルに戻り、ジムへ直行する。朝食は後回しだ。鏡の前で、もう一度スローイング・フォームをチェックする。おかしいところはないように思うが、実際にコントロールがおかしいんだから、俺の目が悪いのだろう。
しかし、トレーナーはいないから、自分で何とかするしかない。それでも、行き当たりばったりに調整するわけにはいかないし。まずは肩の筋肉を調整するか。こういうときはペック・フライだな。
やってるうちに、またあのアスリート女が来た。熱心だなあ。一瞬だけ俺を見てから目を逸らすのは何なんだろう。別に、俺とトレーニングの勝負をしているわけでもなし。
ここまで何度も会うからには、あるいは彼女は……
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