#11:[JAX] 彼女が不在の朝
夜のゲームの次の日は、早起きが難しい。
攻撃のリズムが出るのが遅いのか、守備がやられやすいのか、それは俺には解らない。俺に評価できることでもない。それを考えるのはコーチの役割だ。
俺がやるべきことは、毎日8時半頃に起きて、9時にスタジアムに来ることくらいなのだが、今日は寝坊した。9時15分になってしまった。
しかし、気にしない。声をかけるべき女は、今日は休んでいる。いつもの部屋の隣のドアをノックする、この部屋のドアも常に開いている。
「
「
それはそうと、彼女はとても人気がある。マギーとは比べものにならないくらい人気がある。おかげでたくさんの男が彼女のところへ来る。仕事の邪魔になる。
だから彼女はマギーよりも仕事の効率が悪い。だから俺は彼女でなく、マギーに仕事を頼む。もっとも、それ以外の理由もないではない。
「今日はマギーは休み?」
「ええ、休みよ。それ、先週も訊かなかった?」
「そうだったかな。ゲーム・ブック以外のことは忘れやすいんだよ」
そしてゲーム・ブックの内容は、ゲームの翌日にはほとんど忘れてしまう。次のゲームのためのプレイを憶える余地を、空けないといけないから。
「彼女は基本的にゲーム・デイと、その次の日は休み」
「ああ、そうだった。でも、今週の月曜日はいたのに」
「だって、昨日ゲームがあったから、土曜日に休んだのよ」
「そうだったかな。土曜日の朝には顔を見た憶えが」
「あら、じゃあ、何か急用があって朝だけ来たのよ。10時頃には間違いなくいなかったわ」
「そうか、そうすると今週の休みは」
「昨日と今日」
「じゃあ、明後日の土曜日から来週の土曜日までずっと働くのか。8連勤だ」
「日曜日くらいは早帰りするんじゃないかしら。それとも、有休を取るのかもね」
「とにかく、明日また来るよ。明日は君もマギーも来る予定?」
「ええ、その予定。何か急ぎの用事があるなら、私が承っておくけど?」
それでいい場合もあるが、それではよくない場合もある。今回の場合は後者だ。
「彼女に直接訊く方が話が早いんだよ。君を煩わせるようなことじゃない」
「そんなこと言って、あなたってちっとも私に話しかけてこないのね」
「今日はこうして来てるよ。第一、君のところには他の奴がたくさん話をしに来るから、忙しそうで頼みにくいんだよ」
「マギーの方が私よりずっと忙しいわよ。昼食の時もしょっちゅう
「昼食に、どこのレストランへ行ってるって?」
「レストランじゃないわ。彼女の部屋に行って、ランチ・ボックスを食べるのよ。一緒に行くのは夕食。それもたまにだけど」
「どこに?」
「ダウンタウンの“マリポーサ”ってメキシコ料理店よ。教会の近くにある。それを訊いて、どうするの?」
「いいレストランの情報を集めてるんだよ。チームメイトと行くんだ。君たちの夕食の邪魔をするつもりはない」
「あら、一度くらいは夕食に誘ってくれてもいいのに」
恋人がいるんじゃなかったのかよ。カールの情報が間違えているはずはないんだが。
「レギュラー・シーズン中は無理だな。
「開いてるわよ」
「誰が来てる?」
「あなたの恋人たちじゃないの?」
ケイトは親切にも、ジムの使用状況を調べて教えてくれた。入り口の端末が、身に着けているIDカードを読み取るので、解る。別に、使用料を取るためにそうしているのではなく、使用効率から保守のスケジュールを決めるため、ということになっている。
とにかく、それによれば、
「そうか、やっぱり俺は遅刻だったか」
「昨日ゲームがあったのに、どうして家でゆっくり休んでないの?」
去り際に、ケイトが訊いてくる。どうしてそんな当たり前のことを訊くんだろう。やはり恋人がいないのだろうか。
「みんな好きなんだよ、家のベッドよりも、トレーニング・マシンが」
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