#8:第1日 (2) ルーベンスの町
ウィッセル通りを抜けると、三角形の広場に出た。フローテ・マルクト。西側に市庁舎がある。でかいな。ベルギーで最大のルネサンス建築だそうだ。
壁に無数の国旗が立っている。見たところ、ヨーロッパの国旗ばかりのように見える。屋根に近い壁に3人の女神の像と紋章。そして屋根の頂上に鷲の像。紋章が何を表しているのかはよく解らないが、何かのヒントになるかもしれないので一応眺めておく。
それから広場を見渡す。真ん中に銅像が建っている。ブラボーの像。古代ローマの兵士で、街を救った英雄だそうだ。何かを手に持って投げようとしている姿だが、あれはスヘルデ川を支配して船乗りを困らせていたアンティゴーンという巨人の手だとのこと。
アンティゴーンは川の通行料を払えない船乗りの手を切り取って川に投げ込んでいたが、ブラボーがアンティゴーンを倒し、手を切り取って川に投げ込んだという伝説に基づくらしい。ブラボーがあの手を何ヤードくらい投げたのかが気になるところだが、たぶんターゲットには関係ないだろう。
フローテ・マルクトを南へ出で、東側の路地を入ると、広場の先に聖母大聖堂が見えた。開いて15分ほどは経っているはずだが、まだ観光客が列を成している。並んでまで見るのは気に入らないが、仕方ない。
列が順にはけていき、小さなドアをくぐると、中にチケット売り場があって、8フラン払う。おっと、チケットに日付が書いてあった。1-4-2041。2041年1月4日? いや、ヨーロッパ表記だと4月1日か? 1月だともっと寒いだろうから、4月だろうな。月を数字じゃなく単語で書いてくれりゃ判りやすいのに。曜日は後で確かめよう。だが、駅前が混雑していたから平日だろうな。
さて、大聖堂。入口でもらったリーフレットを見る。1352年から170年かけて建造され、優美な鐘楼は高さ123メートル……えーと、400フィートくらい? ベネルクス三国で最も高い鐘楼であり、フランドル地方とワロン地方の鐘楼群の一つとしてユネスコ世界遺産に登録。
で、中は、うーむ、今までに見てきた大聖堂とあまり変わりないな。ここの一番の“売り”はルーベンスの三つの祭壇画だから、それは見ておく必要がある。
かつてこれらの絵は、普段カーテンで隠してあり、金を払った人だけに見せたそうだ。今は中に入れば誰でも見られるが、入るのに金がかかるんだから、どっちにしろ教会の商売であることには違いない。違いがあるとすれば払う金額くらいだろう。昔はきっと、金持ちだけが見られたに違いない。
さて、聖杯。飾ってあるとすれば祭壇だろう。人の列に付いて祭壇の方へ行く。『聖母被昇天』の絵の前には燭台が何本も飾ってあるが、聖杯らしきものはない。あったとしても、ミサの時にしか使わないだろうから、普段はどこかに保管しているのかもしれない。夜中に忍び込んでみるか? まあ、それもいいが、司祭館に保管しているかもしれないし、そう簡単にターゲットが見つかるはずもないので、ここにはないだろうと推察する。今はフラッグ・ビットを立てるか、キー・パーソンに会えるか、あるいは他の
さて、見るべき物は見たし、次のところへ行こう。おや、こんなところに子供の銅像が。何だ、これは。説明が何も書かれていないので、由来が判らない。重大ではないと思うので、調べなくてもいいか。
「もう終わりか。他にも宗教画がたくさんあるのに、それらを鑑賞するほど美に造詣が深くないらしいな」
「いいんじゃないの、それが目的でもないし。効率よく回るのが彼のいいところよ」
「そのとおりですね、ミス・グリーン。
「でも、今日は教会ばかり回るつもりらしいから、あと一つかな。さて、次は?」
聖チャールズ・ボロメオ教会に戻る。元はイエズス会系で、聖イグナティウス教会という名前だったとのこと。入場料は3フラン。中は壁や柱が真っ白で明るい。ルーベンスが天井画を描いたが、1718年の火事により焼失。原因は雷。それは災難だったな。祭壇画は……ここも聖母被昇天だ。聖杯は置いていない。併設のレース博物館は水曜のみ開館。よし、次だ。
「早いわね。観覧時間10分足らず? 教会にはターゲットがないって決めつけてるのかしら。でも、それも一つの策よね。そもそも、聖杯と教会って関係が、あからさますぎるのよ。裏読みしても当然だわ。さすがは
「キャット接近中。でも、気付かなかったようだ。彼は視野が広いはずなんだがな」
「お互いに、“不審な行動”を取らない限り気付きませんものね」
「次は……ああ、そっちへ戻るのか。メルクマルクトを通るね。フルン広場へ行くかも」
メルクマルクトを通る。
で、フルン
そして、広場の東側にはヒルトン・ホテル。いいねえ、今日はここに泊まるか。誰も俺を泊めてくれそうになかったら、だけどな。
広場を斜めに横切って、ナティオナーレ通りへ入る。モード博物館の横を通って、アウグスタイネン通りに折れると、
外観も内部も質素な造りで落ち着いた雰囲気だ。スコットランド女王メアリー・スチュアートの記念碑があったり、二人の天使の像に支えられた
さて、次は
正面に二つの白い塔を配し、明るい感じの外観だったが、中に入ると壁がダーク・グリーンとブラウンの地味な配色だった。ただ、天井が高く、ステンド・グラスの窓も広いので、日射しが明るく差し込んでいる。おっと、ここにも
さて、これで大聖堂と五つの教会のうち、四つを回った。残りの二つはまだ開いていないし、そろそろ昼なので食事にする。教会を出た向かい側にカフェテリアがあったので、入ってサンドウィッチとコーヒーを注文した。メニューが読めず、英語でオーダーしたのだが、何とかなるものだ。
運ばれてきたサンドウィッチを摘まみながら地図を見る。少し北の方に、植物園がある。東にはスタツ公園がある。植物園は小さいが、スタツ公園はかなり大きい。池もあり、散策道もあるようなので、ここならランニングができるかもしれない。後で見に行くことにする。
残りの二つの教会は、どうするかなあ。ここからなら、ルーベンスの家に寄って、聖ジェームズ教会へ行って、聖ポール教会へ、という順番になるのだが、ゆっくり回っても時間が余りそうな気がするし、その後行くところを思い付かないし。
他に観光客が行きそうなところといえば、美術館はさておき、ダイアモンド博物館……ああ、そういえばベルギーはダイアモンドの加工で有名だったような……それから、動物園か。動物園ねえ。
「あれ、そっちへ行くの? てっきりルーベンスの家へ行くかと思ったのに」
昼食を終え、東の方へ歩き始めた
「きっとスタツ公園だね。彼、ランニングが日課なんだろう? 明日の朝とかに、公園で走れるかどうか、偵察に行くんじゃないの」
「そうなると、明日の朝、キー・イヴェントが発生する可能性があるわね。キー・パーソンは……ニールスね。
「どうなれば興味を持つと思います? ミス・グリーン」
「ああ、ええと……ロイスが迎えに来るタイミングで出会えば、可能性があるんじゃないかしら。彼、美人には興味を持つ性格なんでしょう? どうせ二人はシナリオ上もセットなんだし、話が早いわ」
「ペアにはあまり興味を持たない性格のはずだよ。そういう意味では、彼に会いそうなキー・パーソンはスザンヌなんだけど、性格が合わなそうだし……」
「シナリオとしては彼には合いそうなんだけどね。で、スタツ公園に到着、と」
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