#6:第4日 (9) 紛らわしい話
「あー、じゃあ、俺から説明してみようか」
バレリアは論理的に正しいことを言ってるんだが、長すぎるんだよ。いつもよりたくさん飲んで酔い始めているドロレスには、それじゃ解らないだろう。
「バレリアは賭けをしようと言っている。君と勝負して、勝ったら何か一つ言うことを聞くという賭けだ。ここまではいいか?」
「どうして賭けをしなきゃいけないのか解んないけど、言ってることは解ったわよ。それで?」
「バレリアは、自分が勝ったら君の部屋を貸して欲しいと言っている。俺とバレリアが勝負するための場所として、だ」
「そうそう、そう言ってもいいわね。アーティーって理解が速い上に説明がお上手だわ。だから体験の時もあんなにお上手だったのね」
「そんな! だって、何やってもバレリアには4回か5回に1回くらいしか勝てないのに……」
何だ、この二人、ただの友人じゃなくて、ゲームとかで結構対戦してるのか。もっとも、最近はしてなかったような感じだが。
「あら、最初から諦めてちゃダメじゃないの。私だって最近あんまりしてないから、弱くなってるかもしれないわよ。それとも、お酒の量で勝負してみる?」
「ダメよ、お酒は絶対勝てない……」
「なら、決まりね。何の
バレリアは串焼きの肉をありったけ口に詰め込むと、どこかへ行ってしまった。恐らくゲームを探しに行ったのだろう。ドロレスは不満そうな顔で俺のことを睨んでいる。“どうして賭けをしなきゃいけないのか解らない”というところをもう少しバレリアに突っ込んでもよかったと思うのだが、そこまで頭が回らなかったのだろう。
俺としてはドロレスの部屋へ入り込めればそれでいいので、バレリアが勝てば労せずして入れるし、ドロレスが勝っても何とかなるだろうという気がする。ただ、鞄があの部屋に置きっ放しなので、入れてもらえないとも思っていなかったが。すぐに、バレリアがカードを持って戻ってきた。
「ロリータが私に一番勝率がよかったジン・ラミーにしてあげるわ」
「シングル? マルチ?」
「シングルの方がロリータが勝ちやすいんじゃない?」
そう言ってからバレリアがビールの残りを一気に飲み干す。景気づけのつもりかもしれない。ドロレスも釣られたように飲み干す。間髪を入れずモニカがヒールを持ってきて、空いた皿を下げていく。バレリアは本当によく飲み、よく食べる。
ところで、俺はジン・ラミーのルールをよく知らないのだが、バレリアはなぜ俺が知っているはずだと思ったのだろう。最初の
最初の3ラウンドをバレリアが取り、次にドロレスがジンで勝って追いつきかけたが、その後、バレリアが連勝してあっさり100点を超えた。ドロレスは俺に負けた時と違ってとても機嫌が悪い顔をしている。
「ありがとう、ロリータ、あなたの部屋、貸してもらうわね。あら、でも、そんな不機嫌にならないで。私とアーティーの勝負が終わったら、あなたも一緒にやりましょうよ」
「全部3人なんていやよ! 私もアーティーと二人だけでやりたいの!」
「あら、それでもいいわよ。でも、そうしたら早めにあなたの部屋へ行った方がよさそうね」
「どうぞ、
「ええ、私が勝ったわ。さあ、アーティーと何で勝負しようかしら? とっても楽しみだわ」
「酔わさないと強くならないわよ」
モニカが余計なことを言う。
「あら、そうだったわね。何を飲ませればいいの?」
「まだ
「解ったわ。アーティー、お料理もまだいっぱい残ってるから、クラーラとサングリアを飲んでね」
「別に、酔うと強くなるなんてことはないつもりなんだが」
「そんなことないわよ! アーティーが酔った時にどうなるかを一番よく知ってるのは私なんだから! こうなったら、私もアーティーといっぱい勝負しなきゃ気が済まないわ。モニカ、私にもサングリア!」
ドロレスが本当にやけを起こしてしまった。今夜は寝かせてもらえないかもしれない。
「じゃあ、みんなでサングリアで乾杯してからロリータの部屋へ行きましょうか。それまではアーティーのお話をもっと聞きたいわ。アーティーってガール・フレンドをたくさん作るのがお好き? それとも、一人の女性を大事にするタイプなのかしら」
「さあね、俺は元々友達が少なくて、ガール・フレンドなんてほとんどいないからよく解らんな」
俺は現実の世界では女からあまり相手にされなくて、いい女に声をかけても適当にあしらわれるとか、せっかく作った恋人を他の男に持って行かれるとか、そういうことばっかりだったんだがな。綺麗な女からちやほやされるのは、この仮想世界だけだよ。
「あら、そうなの。みんな見る目がないのね。じゃあ、私みたいな人妻はあなたのガール・フレンドになれそう?」
「ちょっと、バレリア! 何訊いてるのよ?」
「何って、私がガール・フレンドになれるかどうかを訊いてるだけじゃないの。それとも、離婚しないとダメなのかしら?」
「いや、友達として遊ぶだけなら人妻でも構わないが」
「あら、でも、私、アーティーと本気の勝負がしたいのに」
「ゲームは本気でするよ」
「
「いや、それはやることに依ると思うが」
「遊びで付き合っているうちに、だんだん本気になってくるなんてことはあるのかしら?」
「さあね、そういうのも経験がないからよく判らんな」
「ちょっと、バレリア! 何訊いてるのよ?」
「何って、どんなことならアーティーが本気になれるかを訊いてるだけじゃないの」
「とてもそうは聞こえないわよ!
「じゃあ、アーティーは女性を賭けて
「女を賭けの対象にするなんて、そんな失礼なことはしないよ」
どうもバレリアの話というのは脈絡がない。ゲームの話になったり、男女の関係の話になったりしている。酔っていなさそうに見えて、本当は酔っているのかもしれない。ビールはもう10杯くらいは飲んでるはずだし。ドロレスが酔っているのははっきり判る。というか、彼女が酔っているのを初めて見た。バレリアに絡んでいるところなんか、まるで子供のようだ。
サングリアが運ばれてきて、それを飲みながらも同じように紛らわしい話をしばらくしてから、ドロレスの部屋に行くことになった。まだ10時前で、この4日間の中で一番早い。ドロレスは飲み過ぎたせいで歩けなくなったので、俺が背負うことになった。初日と立場が逆だ。背中からドロレスの体温と、柔らかい膨らみの感触が伝わってくる。
「ロリータって子供の時から負けず嫌いなんだけど、駆け引きがそんなに上手じゃないから、私みたいなすれっからしにはすぐに負けちゃうのよね。でも、とっても素直でいい子なのよ」
横で歩きながらバレリアが楽しそうに言う。バレリアはドロレスの鞄を持ってくれているが、私も酔って足下が危ないわ、などと言いながら、俺の腕に掴まって身体をくっつけてくる。腕に柔らかいものが当たっている。そのバレリアが道案内をしてくれているのだが、今まで通ったことがないような道ばかりで、ドロレスの
部屋へ入ってドロレスをソファーの上に降ろす。すっかり寝てしまっている。バレリアがドロレスの服を脱がして下着だけにしてしまう。どうしてそんなことをするのか判らない。そして自分もドレスを脱いで下着姿になってしまった。どうしてそんなことをするのか全く判らない。
「だって、ロリータの部屋に来たらいつもこうしてくつろいでるんだもの。アーティーは脱がないの?」
「寒がりなんで着ておくよ」
「あら、残念だわ。アーティーの身体を見たかったのに」
バレリアは笑顔だが、とても冗談とは思えない。
「ところで、ゲームは?」
「ジン・ラミーでいいでしょ? ロリータとはシングルしかしなかったから、もっとしたいわ」
「実はルールをよく知らない」
「あら! アメリカではとても人気があるって聞いていたのに」
過去にはそうだったのかもしれないが、少なくとも爺さんは教えてくれなかった。さっきバルで見ていて、だいたいのルールは判ったが、改めてバレリアに教えてもらう。向かい合って座っていると、胸の谷間が気になって仕方ない。ドロレスのはようやく見慣れたと思っていたのだが、谷間の深さが違うせいかもしれない。マルーシャよりほんの僅か控え目なくらいかと思う。
「それで、マルチというのは?」
「マッチを何度もするだけよ。マッチ毎に別の得点が追加されて、その合計で勝敗を決めるの」
「それで、今夜は何回マッチ?」
「モニカとやる時は回数なんか決めずに朝までやることが多いわね」
「俺にはとても無理だよ」
「私も、明日は仕事があるから無理ね。今日が金曜日だったらよかったのに。あら、でも、今週末は旅行に行くから、やっぱり時間がないわ」
「何時までやるか決めてくれないか」
「ロリータとは毎晩何時までやってたの?」
「1時くらいだな」
「じゃあ、1時までね」
「ドロレスも一緒にやるんじゃないのか?」
「起きてきたらね。でも、起きそうにないけど」
確かに。バルではずっと不機嫌だったのに、今は実に安らかな顔をして寝ている。横に寝ていたら優しく髪でも撫でてやりたくなるほどだ。ただ、ブラジャーの肩紐が片方ずれ落ちてしまっているのがとても気になる。
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