#6:第4日 (8) 何を賭けた勝負?
「ちょっと! どうしてそんな紛らわしい言い方するのよ!」
いや、ドロレス、君だって次の日、紛らわしい言い方してたじゃないか。そうして俺を散々もてあそんでたくせに、自分が同じことされたらどうしてそんなに慌てるんだよ。
「あら、そんなに隠さなくてもいいのよ。それとも、カモにしようとしたのに、逆に攻略されちゃったのかしら?」
「そういうのじゃないの! 私の方が強いんだから!」
「そんなに力むことないじゃないの。要するに、彼はあなたよりちょっとだけ弱いのね」
「あ、うん、まあ、そうだけど……」
「でも、酔ったら強くなるんでしょう?」
「ちょっと、どうしてそんなことまで知ってるのよ? モニカ!」
ちょうどモニカがサラダとビールを持ってきた。ビールなんていつ頼んだのだろう。バレリアの分が無くなってるから彼女のだと思うが、無くなるタイミングを見計らって自動的に持ってくるようになってるのだろうか。
「んんー、何?」
「あなた、バレリアにアーティーのことどんな言い方してるのよ?」
「別に大したこと言ってないわよ。ロリータが酔わせて部屋に連れ込んだらいきなり強くなって、夜中に『
「ちょっと、どうしてそんな紛らわしい伝え方するのよ?」
「何が紛らわしいのよ、全部あんたが言ったことでしょ。ねえ、アーティー」
「俺は『ケ・リコ』しか憶えてない」
「ちょっと、アーティーまで!」
「まあまあ、いいじゃないの。ロリータは最近男に遊んでもらってないみたいだから、欲求不満になってて、つい大きな声が出ちゃったのよね」
「そんなのじゃないったら!」
「ロリータ、
「飲むわよ!」
「何を興奮してるのよ、小娘じゃあるまいし」
「とにかく、アーティーはロリータと同じくらい強くって、酔うともっと強くなるのね。解ったわ。とっても楽しみ」
「何が楽しみなのよ?」
「さあ、それでロリータにお願いがあるの。彼を一晩貸してくれない? 私も彼としてみたいの」
またそんな紛らわし言い方をする。彼女たちはどうして“ゲームで遊ぶ”ことを“
「それは……別に、私は構わないわよ。アーティーさえいいのなら」
「あら、嬉しいわ。それはそうよね、アーティーはあなただけのものじゃないし、あなたには別にちゃんと男がいるし」
「バレリアだってマックスがいるじゃないの! まだ離婚してないんでしょう?」
「それは手続き上のことで、一晩くらいなら問題ないわよ」
いや、待て。君ら、話がずれてきてるぞ。モニカが料理を何皿か持ってきた。いつもと違って皮肉っぽい笑顔を浮かべている。この二人の会話を聞くのが楽しいのかもしれない。
「どうぞ、
「そうよ、それでロリータにもう一つお願い。私も今夜、あなたの部屋へ行っていいかしら? もしかしたら泊まることになるかもしれないけど、その時は居間でアーティーと一緒に寝るわ」
「ちょっと、どうして私の家に!?」
「あら、ダメなの? じゃあ、モニカの部屋にしようかしら。仕事が終わるまでなら使っていいわよね?」
「んんー、いいけど、ドアの錠が壊れて開かなくなってるかも。もしそうなってたらロリータの部屋に泊まるつもりだったけど」
「あら、それは大変。錠前屋に替えてもらったら?」
「そうね、ロリータのところも替えてもらったらしいから、私も考えるわ」
なるほど、今朝のあの罵声は錠が閉められなかったせいか。まあ、中のタンブラーが折れてない限りピックを使えば開けられるだろうが、そんなことをここで口にするのはまずい。バレリアが料理に口を付ける。腹が空いているのか、ちょっとがさつな食べ方が気になる。どこかの女神とは大違いだな。
「さて、これで今夜の場所も確保できたし、後はアーティーの気持ち次第ってことね。ねえ、アーティー、私としない? 勝ったらとっても素敵なご褒美あげるわよ」
ビールを飲んでいたドロレスが咳き込む。なぜ君が驚く必要がある?
「ちょっと、バレリア、ご褒美って……」
「あら、ロリータにあげるんじゃないのよ、アーティーにあげるの。でも、きっとあなたの期待は裏切らないと思うけど」
俺が欲しいのはターゲットかそれにつながる情報だが、バレリアが言っているのはたぶんそれとは別のものだろう。もちろん、そちらの方にも興味がないことはないが。
「アーティー、あなた、そんな目的のためにバレリアと勝負するの?」
「俺は何も約束してないよ。ご褒美ってのはバレリアが言い出したんだ」
「あら、じゃあ、勝ってもご褒美いらないの? ロリータはどうだったか知らないけど、私ならアーティーを十分満足させる自信があるのに」
そっちの話に聞こえるような紛らわしい会話をしていただけはずなのに、いつの間にかそっちの話になっている。バレリアは人妻だけに、そっちの話を始めるといっそう艶めかしく見える。
「アーティーはそんなことのために女と勝負するような男じゃないの!」
ドロレスがわめく。褒めてくれるのは嬉しいけど、そんなに大きな声出さなくても。隣の席の男どもが黙ってしまったじゃないか。それでなくてもさっきからあの紛らわしい会話をずっと盗み聞きされてたってのに。
「あら、そうなの? あら! じゃあ、あなたたちって……」
ドロレスの大声に少し驚いていたバレリアが、満面の笑みを浮かべて俺とドロレスの顔を見比べる。ああ、そうか、話がやけに艶めかしくなってきた理由がようやく解った。
「じゃあ、モニカの話は本当だったのね。それはそうよね、いくら最近フェデリコが帰ってこないからって、ロリータが見ず知らずの男と寝るはずないものね。じゃあやっぱり、よほど特殊な事情があったのね。よかった、安心したわ」
「ちょっと、何なのよ、一体!」
「いいのいいの、私が勝手に心配してただけだから、ロリータは気にしないで。それとも、フェデリコのことアーティーに言っちゃっていいの?」
「余計なことだから言わなくていいの!」
「じゃあ、俺がバレリアに勝ったら、ご褒美としてその話をしてくれるってことでどうだろう?」
「あら、それでもいいわよ。でも、もっと違うご褒美もあるのに」
「ちょっと、バレリア!」
「大丈夫よ、おしゃべりしたいからわざと負けるなんてことしないわ。ねえ、アーティー、ご褒美の件は置いておくとして、私と勝負はしてくれるんでしょう?」
「ドロレスと勝負した時はまずこのバルでやって、勝ち越さないと部屋に連れてってくれないって条件だったんだがね」
「あら! じゃあ、アーティーがまずロリータに勝たないと、私との勝負が始まらないってことなのね。ううーん、心情的にはロリータを応援したいんだけど、複雑な気分だわ。じゃあ、ちょっと待っててね、考えるから」
バレリアはそう言ってビールを飲み、料理をパクつきながら考え始めた。ドロレスも飲んでいる。何だかやけ酒のような飲み方だ。二人ともあっという間にビールが無くなるが、ちょうどタイミングよくモニカがビールと料理を持ってきた。やっぱりビールは注文しなくてもタイミングを見計らって持ってきているらしい。
「どうぞ、
「リカルド? あら、久しぶりじゃないの。でも、鍛冶屋になるって言ってバスクに行ってたはずじゃなかったかしら」
「昨日も一昨日も来てたのよ。休み取ったって言ってけど、さっさと帰れってロリータに怒られてたわ」
「また転職する気なんじゃないかしら。ところで、どこにいるの?」
バレリアが肉団子を口に入れながら辺りを見回す。俺も見たが、あのでかい姿は見えない。
「あんたが来てるって言ったら帰っちゃったのよ。またお説教されると思ったんじゃないの」
「そうねえ、きっとそうなるわねえ、賢明な判断だと思うわ。あら? 私、何を考えてたんだったかしら。そうそう、アーティーの件ね。ロリータ、ちょっと聞いて」
「何よ」
ドロレスの機嫌が悪い。さっきからビールをがぶ飲みしている。串焼きもつまみ食いしていたようだが。
「アーティーがあなたの部屋へ行くには、まずアーティーがあなたと勝負して、勝たなきゃいけないのよね?」
「え? あ、そうね、そうしてるわよ、いつも。無条件でアーティーを泊めてるわけじゃないんだから」
何だかドロレスがむきになっているように見える。さっきからの様子では、どうもドロレスはバレリアに対して分が悪いというか、頭が上がらないようだ。ちょっと反発しているのは、その反動だという気がする。何か弱みを握られているようにも思えるが、どうなんだろう。
「じゃあ、私があなたの部屋へ行ってアーティーと勝負するにも、まずアーティーがあなたと勝負して、勝たなきゃいけないのよね?」
「……そうね、そうなるわ」
「そこで提案なんだけど、あなたがアーティーと勝負する代わりに、あなたが私と勝負して、私が勝ったらアーティーがあなたの部屋に行って私と勝負していいっていうことにしちゃダメかしら?」
「え? どうして私がバレリアと勝負しなきゃいけないの? アーティーとバレリアがここで勝負すればいいじゃないの」
「だから、私とアーティーがあなたの部屋に行って勝負するには、アーティーがあなたと勝負して勝たないといけないんでしょ? でも、その代わりに、私があなたと勝負して、私が勝ったらアーティーがあなたの部屋へ行っていいっていうことにしたらどうかって言ってるの」
「え? え? え? ちょっと、どういうことか解んないわよ。もう少し解りやすく説明してよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます