#5:第1日 (5) 尾行する美女
カプリ・デッキとバハ・デッキは、映画館を除くと基本的には
しかし、
それと、
さらに、もう一人
とはいえ、当てがあるわけでもない。歩き回ることは一通りやったので、今度は別の方面から情報を集める。今後の予定の確認……要するに船内新聞を読むことだ。新聞といっても船内のイヴェントや次の寄港地でのアクティヴィティーが書かれたリーフレットだ。
午後3時からダイニングでティー・パーティー、スター・ライト・ラウンジでポップス・コンサート。午後6時からインターナショナル・ラウンジでラテン・コンサート、11時半からダンス・タイム。映画館では昼間に子供向けの映画、夕方から『ステップフォードの妻たち』を上映。明日はティー・タイムにダイニングでミステリー作家のトーク・ショー、夕方にサン・ルーカス岬沖に到着して希望者は1時間半ほどの海岸クルーズ、夜はラウンジでマジック・ショー。まあ、大した情報はなかったな。
読み終わってふと顔を上げると、通路を挟んだ向かい側の席に、いつの間にか若い美女が座って本を読んでいる。綺麗なシャンパン・ブロンドの髪を、肩に届くほどに伸ばしている。どこかで見たような顔だ。確か、昼食の時に
アンナとよく似た容姿だが、美貌もスタイルの良さも一段くらい落ちている。胸もわりあい大きいのだが、“あれ”に比べれば並みのサイズくらいに見えてしまうな。それでも、実際のところはかなりの美人だ。
でも、あの姿はたぶんアヴァターだよな。すると、アンナは早くも
男が名前を聞いている。うん、いいぞ、俺も知りたかった。何だと? 声が小さすぎて聞こえない。フィーラ? ティーラ? よく聞こえない。そもそも、ファミリー・ネームがわからないと調べづらいんだが。色々話しかけられているが、あまり答えていないというか、はっきり言って迷惑してるという感じだな。あんまり困ってるようならわざとらしく助けの手を差し伸べてみるという手もあるが……
おっと、こっちの方を一瞬見たぞ。偵察する相手の方は見ないのが
通路をウェイターが歩いてきて、他の客とすれ違う。ウェイターが一歩避けながら、男の目の前に尻を向ける形になった。それがきっかけで女が立ち上がる。男の方は追いかけたそうにしているが、ウェイターが前にいるので立ち上がれない。ウェイターがどいて、男がようやく立ち上がったが、その時には俺が目の前に立ちふさがっていた。俺も彼女を追いかけないといけないんで、悪く思わないでくれ。男は諦めたように元の席に座った。
女の後を追ってラウンジを出る。女はラウンジの前の廊下に立ち止まっていたが、俺の姿を見て慌てて階段を降りていった。俺も階段を降りるが、そこで見失ってしまった。ここはプロムナード・デッキだが、まさかこのフロアの
さて、彼女の
ついでにパーサーズ・ロビーを覗いたが、
「ちょっと訊きたいことがあるんだが……」
「はい、何でしょう?」
男は返事をして元気よく立ち上がると、愛想のいい顔をしながらこちらに歩いてきた。
「プロムナード・デッキの外の通路は、一周できるのか?」
「外の通路? はい、一周できますよ」
「朝の早い時間に、その通路でランニングをしたいんだが、できるだろうか」
「ああ、なるほど。ええ、もちろんできますよ。反時計回りで走って下さい。ただ、夜明け後から朝食時間帯まででお願いします。夜明け前は暗くて危ないですし、朝食時間後は甲板に出るお客様が増えますので」
「そうか、ありがとう。……ひょっとして、他にも走る奴がいたりするのか?」
「そうですね、たぶんいらっしゃると思います。まあ、明日はまだ2日目ですのでそれほど多くないと思いますが、3日目、4日目あたりからは増えてくると思います」
そういうものなのか。知らなかった。クルーズ船は乗ったことがないからな。礼を言ってロビーを出る。
ふと目の前のブティックを見ると、さっきの女がいた。商品を物色するふりをしつつ、俺の方を気にしている。また来るだろうと思ったら、こんなすぐに来るとは。俺が見ているのに気付くと、その後は俺の方を見なくなった。何とわかりやすい尾行者。もしかして、わざと俺に見つかっているのだろうか。
声をかけようかと思って一歩踏み出したら、女はブティックから足早に出て、アーケードの向こうへ消えてしまった。あからさまに追いかけるのも周りの人間に怪しまれるので諦める。次はいつアプローチしてくるのかな。
とりあえずプロムナード・デッキへ上がって、外の通路を一周してみる。走るわけではないが、教えられたとおり反時計回りに歩いてみよう。右側の通路から前の方へ行くと、壁側には
ずっと先へ行くと開放甲板になる。中央辺りにはウインチなどの機器が並んでいる。舳先の一番先端までは行けなかったが、かなり近いところまでは行けた。そこで左側へ回り込み、後ろへ歩く。
左側
折り返して右側の通路を前へ進む。元の場所に戻ってみたが、一周300ヤードくらいだろうか。まあ、これくらいあればいい運動になりそうだ。
船内に戻り、もしかしてさっきの女がまたいるのでは、と思って辺りを見回してみたが、いなかった。さすがにそう何度も連続でアプローチしてくることはなかったな。しかし、彼女は俺の顔をどうやって憶えたのだろう。俺が彼女を見たのは一瞬だから、向こうだって同じはずだ。アンナが教えたのに違いないが、写真を持っているのだろうか? まさかと思うが。
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